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bookmark_borderシステムLSIの低消費電力化技術(1)

こんにちは。今日はCMOS LSIの性能を上げつつ低消費電力化を実現する技術の1つをご紹介します。

前の記事「CMOS LSIの消費電力と動作周波数」をご覧になる方はこちら

低しきい値MOS技術とは

低電源電圧領域におけるCMOS LSIの高速動作の最大のポイントはVthです。Vthを低くできれば高速化を図れるはずですが、実際はサブスレッシュホールド・リーク電流という別の問題によって効果は制限されてしまいます。一般にSi-MOSでは、Vthを0.1V下げると、そのOFF時のリーク電流が1桁増えます。Vthを下げられる限界はプロセス製造ばらつきを考慮すると0.3~0.4Vです。

ところが近年、論理回路のVthを0.1~0.2Vのレベルまで下げて回路の高速化を図り、低電圧化により増大するリーク電流を回路的工夫によって解決する 技術が開発されました。それぞれ 「 MT-CMOS (Multi-Threshold CMOS)」  「 ダイナミック・ウェル・バイアス法」と呼ばれます。

MT-CMOS (Multi-Threshold CMOS) 

MT-CMOSの原理図を図7に示します。

0.1~0.2Vレベルの低しきい値(L-Vth)MOSで構成されたLSI論理回路を機能に応じていくつかの回路ブロックに分け、各ブロックとLSI電源との間に、0.4~0.5Vレベルの標準しきい値MOS(H-Vth)の電源スイッチを挿入します。

図7 MTCMOS (NTT、NEC、日立 他)

MT-CMOSでは、パワーマネジメントによって動作ブロックと非動作ブロックに制御され、動作ブロック【青】の(H-Vth)MOSスイッチのみONさせます。動作ブロック【青】の論理回路は(L-Vth)MOSで構成されており、低電圧にもかかわらず高速動作します。一方、非動作ブロック【赤】の(L-Vth)MOSで構成される論理回路には、サブスレッシュホールド・リーク電流が流れるものの、(H-Vth)MOSスイッチによって遮断され、悪影響を抑え込みます。

動作ブロック【青】の論理回路のサブスレッシュホールド・リーク電流は依然存在するのですが、信号処理に応じてノードを充放電する動作電流に比べて小さいので無視できます。加えて、動作ブロックの電源スイッチによる電圧ドロップ(IRドロップ)についても、各ブロックのサブ電源ラインが持つ大きなノード容量による低域フィルタ的な働きにより抑圧され、ほとんど問題とならないです。

このMT-CMOS技術は、90nm以降の先端プロセスを待たずに、1Vレベルの低電源電圧における高速動作を実現する有力な手段となりました。

ダイナミック・ウェル・バイアス法

ダイナミック・ウェル・バイアス法は、LSI論理回路を低しきい値(L-Vth)MOSを用いて構成し、回路の高速化を図る方法です。MT-CMOSと同様、非動作(スタンバイ)時における(L-Vth)MOSを介したサブスレッシュホールド・リーク電流が問題となるのですが、これを、ソースーウェル間を深くバイアスする事によりVthの値を大きくしてリーク電流を抑圧するのが、ダイナミック・ウェル・バイアス法のコンセプトです。この原理図を図8に示しました。

図8 ダイナミック・ウェルバイアス制御(東芝)

LSIを機能に応じていくつかのブロックに分け、各ブロックごとのウェル・バイアスを動作ブロックについては浅く(Vth→小)して動作を高速化し、待機ブロックは深く(Vth→大)してリークを押さえる。MT-CMOSとは違うVthのコントロール技術で、サブスレッシュホールド・リーク電流を抑圧しつつ低電源電圧高速動作を実現できる。

冒頭でVthの制御では、プロセス製造ばらつきの考慮が必要と申し上げましたが、1Vレベルの低電源電圧動作時では、プロセス上のばらつきが動作周波数に与える影響が大きく、Vthが高い方向へ大きくバラツクと最大動作周波数が極端に低下してしまいます。ダイナミック・ウェル・バイアス法では、動作ブロックにおいて、ウェル・バイアスをVthのバラツキに適応してコントロールすれば、安定した所望のVthが得られ、低電源電圧高速動作を実現する事ができます。確立後しばらくこの方法はプロセス、温度、電源電圧等の変動において有力な手段でありました。

次は、活性化領域を最小化して省電力化を狙った技術をご紹介します。

bookmark_borderCMOS LSIの消費電力と動作周波数(3)

CMOS LSIについての3回目です。

今日はLSIのデザインルール微細化に伴う低電源電圧化についてお話します。

CMOSLSIの低消費電力化のためには、電源電圧Veの低減が最も有効であることは、前回記事でもお話した通りですが、最大動作周波数FmaxがVeに依存しているので、最大周波数も低下してしまうという問題がございます。これはどう解決したらよいのでしょうか。

デザインルール微細化に伴う低電源電圧化

CMOSプロセスは、3年(1世代)でデザイン・ルール“L”が0.7倍にスケールダウンされるので、前回お示しした(7)式の分母のL1.5が小さくなります。

これは図4のVe-Fmax特性の勾配が大きくなる事を意味し、同一電源電圧であれば3年で約1.7倍の高速化を図れることになります。

図4 Ve-Fmax特性(再掲)

別の言い方をすれば、ある周波数Fxを動作させる電源電圧は3年で2/3にできる(図5)。さらにスケールダウン則に伴う容量低減も考慮すると消費電力は3年で1/3にする事ができる。

図5 デザインルール微細化に伴う低電源電圧化

すなわち、デザイン・ルール“L”の微細化に伴い、キャリアの移動度の速度飽和現象およびホットキャリア耐性の問題が発生し、MOSトランジスタの最高性能を発揮する電圧、いわゆる「最良電圧」は低電圧化していく、という事になります。

最大動作周波数 Fmaxの温度特性について

低電源電圧動作では、Fmaxの温度特性に注意する必要があります。(6)式を高温および低温について図示すると図6となります。

図6 最大動作周波数 Fmaxの温度特性

高温環境ではキャリア移動度が低下するため、キャリア移動度μは負の温度係数を持っている。また高温環境では印加ゲート電圧に対してウェルにチャネルができ易くなるので、Vthは負の温度係数を持っている。

以上からFmaxの温度特性は、「高い電源電圧では低温環境の方が、低い電源電圧では高温環境の方が高速化する逆転現象」が起こります。プロセスによっても依存いたしますが、一般にVdd=1~1.5Vの間に温度係数ゼロの点が存在するようです。

CMOS LSIで高速応答性を維持しながら、低消費電力化を図る

CMOS・LSIの設計において、その高速性を維持しながら、低消費電力化を図る事が重要である。ここで、(1)式に示した消費電力の式を再度(8)として示します。

  Pc = C・Ve・Vi・f+Ve・Idc ・・・・・(8)

ここでIdcはDC電流成分で、センスアンプの電流源、ダウンコンバータのバイアス電流、低しきい値MOSトランジスタのサブスレッシュホールド・リーク電流等です。

LSIの低消費電力化とは、所望の動作をさせながら、(8)式の各項の値をいかに低減するかの技術です。その代表的な技術について、また次の記事でご紹介いたします。

bookmark_borderCMOS LSIの消費電力と動作周波数(2)

CMOS LSIの続きとなります。

FmaxのVe依存について

前回の最後に最大動作周波数について式(3)を導きました。

MOSトランジスタの飽和領域の特性について、RoはMOSトランジスタのダイナミック・オン抵抗(非飽和領域)、Gmは相互コンダクタンスで(飽和領域)で、この2つは下のような関係にあります。

下の図3にMOSトランジスタの飽和領域の特性を示します。

図3 MOSトランジスタの飽和領域における特性

この図3から、Gm(飽和領域)を求めると、(4)式で表されます。

(3),(4)式から最大動作周波数Fmaxは(5)式で表されます。

一般にCMOSは、フルスイング動作なので、Vgs=Veと表せます。またMOSトランジスタのデザイン・ルールをLとすると、スケーリング則により、tox、W、Lg、C はほぼLに比例する。以上から(5)式は(6)式の様に簡略化できます。

更にサブミクロン以下の微細なMOSトランジスタでは、キャリアの速度飽和により近似的にμ ∝√Lの関係にあるので、(7)式の様にも表現できる。

(6)式から電源電圧Veに対する最大動作周波数Fmaxの関係を図示すると図4の様になる。

図4 Fmax の Ve依存

今回は、式の変形を多用しましたが、最大動作周波数Fmaxが電源電圧Veと依存関係にあることをお分かりいただけたらうれしいです。