ディー・クルー・テクノロジーズ Blog

bookmark_border電源フィルタ (3)

電源フィルタの部品の寄生素子

寄生素子は必ず発生する

今回は電源フィルタを構成する部品の寄生素子分を含めた場合について紹介したいと思います。寄生素子とは、素子に寄生するものなので、出来れば無いほうが良いのですが、実際には必ず寄生素子が存在します。寄生素子はその物理的な構造やサイズなどから決まり、例えば、インダクタにはコイル以外に抵抗やコンデンサが寄生しています。

図 1

具体的な値は以下のような値をとります

Lf1=1.8uHの場合

R0=5800Ω

R1=0.4946Ω

C0=0.291pF

Cf1=15000pFの場合

R2=0.0462Ω

R3=10GΩ

L2=0.42nH

電源フィルタにおける寄生素子の影響

これらの寄生素子を考慮に入れるとインダクタやコンデンサの特性は次のように変化します。

図 2

コンデンサは60MHzより高い周波数ではインダクタに変わり、インダクタは200MHzより高い周波数ではコンデンサに変わってしまっていることが分かります。

つまり、ある周波数(自己共振周波数などと呼びます)より高い周波数では、インダクタやコンデンサはもはや別の素子に変化していると言うことです。

高周波の寄生素子

これらの寄生素子を使って電源フィルタの特性がどうなるかを調べてみました。

なお、使った定数は上のほうで使った値でLf1=1.8uH、Cf1=15000pF、Rf1=15Ωで、寄生素子を含みます。

図 3

図 4

この結果を見ると、寄生素子の影響は100MHz以上で現れる事が分かります。つまり、寄生素子がない場合と比べると、電源雑音を除去する能力が悪くなり、雑音やリップルが回路側に入ってきてしまいます。このように高い周波数が電源から発生する事は少ないように思うのですが、実際に回路ではありえないとは言い切れません。例えば、同じボード上にRFのパワーアンプが搭載されている時などには、数GHzの雑音(と言うよりも信号成分)が電源経由で入り込む事が良くあります。

高周波の雑音を電源に加えてみる

もし、高周波の雑音が電源に加わったとしたらどうなるかを確認してみましょう。

図 5

上の図のように雑音源(5GHz,2Vppの正弦波)が加味されたときの過渡解析は以下のようになります。

図 6

寄生素子を考慮していない回路では、電源に雑音は現れないのですが、寄生素子を考慮した計算では、雑音とした追加した5GHzの信号成分がまだ消えずに残っています。

ノイズの原因は結局電源フィルタということも良くある

今回は非常に大きな雑音源を印加して見やすくしていますが、実際に回路ではこのように大きな雑音が見て分かるように混入する事は比較的に少ないです。しかし、オシロでは見えないような小さな雑音でも感度の高いプリアンプが増幅してしまい、S/Nが悪くなってから初めて気が付く事もあります。その原因は追っかけていくと大半は電源フィルタの構成にたどり着きます。

“電源だからそんなに高い周波数成分は気にしなくても平気だろう”って考えがちです。しかし、高周波と低周波ある周波数で区別するものではなく、全部周波数特性として繋がっているので、”周波数が低いから大丈夫!”言った思い込みは危険です。(美斉津)

bookmark_border電源フィルタ (2)

電源フィルタの弊害対策を考える

前回は電源フィルタの設計は意外と難しくて、雑音を除去するはずの電源フィルタが、逆に雑音や過剰な電圧を発生させてしまう回路になってしまう事があると紹介しました。

今回はその対策を考えてみたいと思います。

コンデンサとインダクタの挙動変化を知る

急激な電圧低下に耐えられないコンデンサ

前回の回路は負荷に流れる電流のピークを10mAとしていましたが、最初の電流でいきなり電圧が1V付近に降下しています。

図1

これは、コンデンサCf1の値が150pFと小さいために急激な電流の増加に電源電圧が耐えられないためです。

つまり、急速な電流の変化にはインダクタは応答できないので、コンデンサが電流を先ずは供給して頑張り、あとでインダクタからゆっくりと電流を供給してもらうといった動きをするのですが、最初の部分で頑張りが足りないと電圧が降下してしまいます。

コンデンサがどのくらい頑張れるかは、次式の計算で求めることが出来ます。

電圧降下は流れる電流を積分してコンデンサの値で割れば良いと言うことなので、計算してみると・・・の電圧降下が発生する事に成ります。

従って、150pFは10mAが40nsec流れるといった負荷には耐えられないということです。

コンデンサの値を大きくする

ではどうするかと言うと、コンデンサの値を大きくするのが一番簡単です。

150pFで2.67Vの電圧降下だったので、特性に影響のないところまでと言うと・・・2桁ずらして、15000pFで0.0267Vの電圧降下であったら特性に問題はなさそうです。

早速変更して計算をして見ましょう。前回と同じように1MHzをカットオフ周波数にするためのインダクタの値を計算してみると下記の様になりました。

1.7uHは一番系列で近い値の1.8uHとしました。

図2

電圧効果は無くなりましたが、代わりに電源が振動するようになってしまいました。

電源振動の原因を周波数特性で確認する

電圧源からの周波数特性を確認してみると・・・・

図3

案の定、ピーキングが発生していました。

共振するポイントを楽に計算で求める

このままではリンギングが条件に依ってはひどくなり、場合に依っては発振してしまう恐れがあります。このピーキングは電源フィルタのインダクタとコンデンサの共振に依って発生しているので、この共振のQを出来るだけ低くすれば良いのですが、その計算は結構面倒な計算式となり、途中で挫折した方もいるかもしれません。そこで、もう少し簡単な方法を紹介したいと思います。

図4

まず上の図の様に電源から見たインピーダンスを、回路を組み立てながら考えてみます。

図5

最初は抵抗だけしかないので、1KΩが見えているだけです。

図6

コンデンサCf1が並列に付くと、並列なので低いインピーダンスが見えます(優先されます)。コンデンサと抵抗のインピーダンスが等しくなる周波数は、R0=1KΩ、Cf1=15000pFの場合、となります。

図7

コンデンサとインダクタの共振回避の方法とは?

最後にインダクタLf1を直列に繋ぎます。今度は直列なのでインピーダンスが高いほうが見え、右の様に再びインピーダンスは高くなります。 ここで大事なのがコンデンサとインダクタがぶつかり合うポイントです。Lf1=1.8uH、Cf1=15000pFの場合、このポイントの周波数(つまり、共振周波数)はとなります。

この辺は教科書にも載っているので、知っている方がほとんどだと思います。

抵抗を入れ、ぶつかり合うインピーダンスのポイントをずらす

でも、ここからがミソです・・・ インダクタとコンデンサがぶつかり合ったポイントのインピーダンスは、Lf1=1.8uH、Cf1=15000pFの場合、 となります。

インダクタとコンデンサの特性が直接ぶつかり合うと“共振”を起こします。

これが、図 3のピーキングの原因なので、共振が起きないように、つまりインダクタとコンデンサが直接ぶつからないようにしてやれば、ピーキングも減る事に成ります。

図8

例えば、上の様にコンデンサC0に直列に抵抗R1を入れて、インピーダンスが抵抗値より下がらないようにすることで、直接インダクタとぶつかり合わないようにしてみます。

ピーキングも振動も抑えられる

Lf1=1.8uH、Cf1=15000pF、Rf1=15Ωとして計算した結果は次の様になります。

図9

ピーキングは大幅に減りました。それでは負荷を接続してみましょう。

図10

負荷電流に依って少し電源が変動しますが、大きな電圧降下も振動も無くなりました。

これでやっと電源フィルタの完成です。。。といいたいのですが、現実の電源フィルタにはもう少し工夫が必要です。それは寄生素子の影響です。

次回は寄生素子の影響を加味して、電源フィルタを完成させたいと思います。


bookmark_border電源フィルタ (1)

今回は電源に入れるフィルタについて紹介したいと思います。

なぜフィルタが必要なのか

フィルタは雑音を取り除く

電源になぜフィルタなどと面倒なものを入れるかと言うと、電源が理想的ではないからです。シミュレーションで使う電圧源や電流源はこの世の中にはありません。実際の電源は電圧や電流だけではなく出力インピーダンスも有限で周波数に依ってその値も変わります。また、色々な雑音が混じっています。

特にほんのわずかな電圧や電流を増幅するアンプにとって、電源に混じっている雑音は信号との区別がつかなくなり、致命的になります。

フィルタ自身も”雑音”を出す源

また、ややこしいのは雑音を出すのは電源だけではなく、自分自身でもあると言う事です。つまり、出力インピーダンスが有限の電圧源は、負荷に流れる電流が増えると電圧降下が発生して、これが負荷にとっては雑音になります。デジタル回路で扱うデータに応じてヒゲのようなスイッチングノイズが出るのは、負荷電流が変わっていることが発端になっているのです。

そんなわけで、電源入れるフィルタは電源が出す雑音だけではなく、自分自身が出す雑音も取り除くことも目的なのです。

フィルタを作成する

では実際に電源フィルタを作ってみたいと思います。

回路の負荷を想定し、カット(除去)周波数を定める

まずは回路の負荷を1KΩと想定します。3.3V電源であれば3.3mAが流れている事になります。デジアナ混在のSoCなどに使われているBGRなどの基準電源と思ってください。

次に電源からの雑音をカット(除去)する周波数を1MHzと決めます。

図1

フィルタ・インダクタの組み合わせを算出する

フィルタの方はLCの2次のLPFとします。共振周波数fcは次式で表されるので、

—————– (1)

共振周波数fcを10MHzとしたときのフィルタ定数Lf1,Cf1の組み合わせを計算してみます。なお、インダクタLf1は(1)式から次の様に計算できます。

—————– (2)

回路を組んで、周波数特性を計算する

これらの組み合わせを上の回路図に適用して、電源V0を信号源として、OUTの周波数特性を計算してみると・・・

図2

組み合わせに依って、ピーキングが発生しています。ピーキングの有無や量は、負荷のR0=1KΩに対して、共振する周波数のインピーダンスが大きいか小さいか、また負荷に対して並列に接続されているのか直列になっているのかにも依ります。

フィルタを調整する

フィルタ値を決めて部品を選定する

この辺りは後で詳しく説明することとして、フィルタの値を仮に決めたいと思います。

コンデンサは200pFより少し小さい方が良さそうなので150pFにします。これを使って計算で求めたインダクタは170uHなのですが、部品としては系列のある180uHとします。

図3

回路の周波数特性・過渡応答を確認する

この回路の周波数特性と電源の起動応答を見てみると次の様になります。

図4
図5

これで周波数特性も過渡応答も確認できたので、これで完了!と行きたいのですがまだ負荷電流変動が残っています。

負荷電流変動の確認をおこなうと。。

前の回路図の負荷変動用電流源I3に下記のようなランダムな負荷電流を加えてみます。

図6

ランダムな負荷電流は10mAピークとしましたが、上の図の様にフィルタ出力電圧OUTは大きく低下して1V付近まで落ち込んでしまい、このままでは回路は誤動作してしまいます。また、負荷電流が減ったとき、電源電圧より高い電圧が印加されるので、デバイスが破壊してしまう可能性もあります。

やはり難しい電源フィルタの設計

このように電源フィルタの設計は意外と難しく、電源回路や負荷となる回路の動作を理解し、これらに合わせて最適なフィルタの型や定数を設計しないと、雑音を除去するはずの電源フィルタが、逆に雑音や過剰な電圧を発生させてしまう回路になってしまい、悪くするとデバイスを破壊してしまう様な惨事になりかねません。

次回は上の回路をどう直していくかを紹介したいと思います。