ディー・クルー・テクノロジーズ Blog

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今回は「負帰還の安定性」について触れてみたいと思います。

負帰還は、戻ってくる値が入れた信号に対して負(つまり、反対)なので、負帰還といいますが、負ではなくなると「正帰還」になります。正帰還は入力した信号と同じ向で信号が帰ってくるので、いっそう入力信号は強調されます。その結果、「発振」という現象が起きます。

意図して発振するのはいいのですが、そうでない場合は・・・いろいろと問題が起きます。

発信器を作ろうとするとなかなか安定した発信ができないのに、発信しなくても良い所で安定して発振する発信器を作ってしまった経験がある方もいると思います。

不期間が不安定の時はどんなことが起きるのか、一例を紹介してみたいと思います。

不調をうったえる上のような帰還回路がついている増幅器の出力波形を見たら下のような波形が出ていて、

不調の原因はこの”うねり”じゃないかと思って、波形に続いて周波数特性を取ってみると・・・

50kHzあたりにピーキングが出ている事が分かりました。どうもこのピーキングが原因のようです。

帰還回路で発生するこういった問題の原因を調べるのに「ボード線図」言うものがあります。

ボード線図は、横軸に周波数、縦軸に利得と位相を書いたグラフです。

ボード線図を書くには、帰還回路の一部を切って(ループを開いて)信号源を入れます。

この信号源の信号がどのような振幅と位相で元に場所に戻ってくるかをプロットします。

つまり、A点の信号がどのくらいの大きさになって、また、どのくらい遅れてB点に戻ってくるか と言うことを周波数を横軸にして調べた結果が「ボード線図」です。

負帰還が安定して動作するかを判定する重要なパラメータが、「位相余裕」と「ゲイン(利得)余裕」です。

「位相余裕」は利得が0dBとなったときに、どれだけ位相が0°に対して残っているかを言い、

「ゲイン余裕」は、位相が0°になった時に、どれだけゲインが0dBから負の値になっているかを言います。

どちらのパラメータも、“位相が0°の時に利得を正にしないこと” をチェックするものです。

位相が0°であるという事は、A点と同じ位相でB点に信号が戻ってくることを意味していますし、利得が正という事は、A点から入力した信号が減衰しないでB点に帰ってくる事です。

入れた信号と同じタイミング(位相)で、入れた信号より大きな信号が戻ってきて加わったら、信号はどんどん大きくなり・・・発振が始まってしまいます。

位相が0°の時に利得を正にしないことは、発進しないための条件です。

(逆に、位相が0℃の時に利得を正に保つこと が発振し続けるための条件です)

上の例では、ゲイン余裕は20dB以上ありますが、位相余裕が15°程度しかなく、これがピーキングの原因であったと言えます。

また、ピーキングの出る周波数(50KHzくらい)は、利得=0dBとなる周波数とほぼ同じになります。

位相余裕が足りないので、回路を修正して位相余裕を確保してみましょう。

(どのように回路を直したかは、周波数特性と部品定数の関係を含めて、別の機会に説明したいと思います)

位相余裕が50°程度まで増え増した。この状態で、負帰還回路を閉じてアンプの周波数特性と波形を観測してみると・・・

ピーキングが減って、”うねり”の時間も量も少なくなったことが分かると思います。

次回は今回触れなかった「ゲイン余裕」に触れながら、位相余裕やゲイン余裕を改善するために行う「位相補償」について

話してみたいと思います。

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今回はPLLの元となる「負帰還」について話してみたいと思います。

負帰還は何かを制御するときの基本中の基本です。これを理解していないと、回路が不安定になり時には発振し、大きな問題を引き起こしたりします。

負帰還回路の帰還とは、信号が戻ってくるから帰還といい、戻ってくる値が入れた信号に対して負(つまり、反対)なので、負帰還といいます。

信号Aは処理Aを経由して信号Bに変化するとします。しかし、信号Aを送った人は、本当に信号Bに変化したか分かりません。処理Aがあまり信用出来なかった場合どうするかというと、信用できる処理Bを使って信号Bの様子を聞きだそうとします。もし信号Bが目標とずれていたら、ずれている分だけ信号Aを補正し、信号Bを目標に一致させます。

このような面倒な事をしなくても、処理Aをきちんと設計して、目標通りに動作するようにしたら良いと考える方もいると思います。確かにその通りなのですが、電子回路の中にも得意/不得意があって、オールマイティな回路はなかなか出来ないものです。

通信系の回路で、DCフィードバックという回路(別の名前で言うかもしれませんが)があります。この回路を例にして、もう少し具体的に説明してみたいと思います。

微小信号を増幅して、デジタル回路でも判別できるように増幅する”広帯域アンプ”は、出来るだけ高速に動作するように寄生容量を少なくする必要があります。そのため、トランジスタのサイズは小さいほうがいい事になるのですが、小さくなると絶対値がバラツクだけではなく、相対精度も悪くなり、適切なバイアス状態に増幅器を保てなくなります。

これを防ぐために出力電圧の平均値(つまりバイアス)を検出して、基準電圧(目標)と誤差アンプで比較し、入力を補正する回路を追加します。平均値を制御するわけですから、誤差アンプは高速動作する必要は無くなりトランジスタサイズを十分大きく出来ます(でも、チップサイズとのトレードオフがありますが)。

このDCフィードバック回路を使うことで、温度や電源が変わっても、製造ロットが変わっても、常に広帯域アンプの出力バイアス電圧は基準電圧と同じなので、この次の段、例えばA/Dコンバータは安心してデジタルに変換できる事になります。

上図のような小さな信号が入力された時、広帯域アンプが0.5V付近を増幅できるようにバイアスされていたら、出力にきちんと増幅した信号が出てくるのですが、

バイアスが上にずれて”0.55V”付近を増幅するようになっていたとしたら、下半分にしか信号が出てこなくなり、デジタル信号変変換が出来なくなります。

DCフィードバックはこの状態にならないように、入力信号のレベルを(または広帯域アンプのバイアスを)調整する役目をしています。

通信系の回路では、主信号通すブロックには低雑音、線形性や高利得、広帯域、高速、高駆動などの厳しい要求が課せられるため、主信号系回路のバイアス制御などは負帰還回路を用いて行う事が一般的です。

オールマイティな回路が作れたら負帰還回路は要らないかもしれませんが、現実はそんなにうまくいきません。

主信号系と制御系(負帰還回路)がお互いに補正しあいながら全体としてうまく動作しているところは、仲の良い夫婦と似ていると思うのは僕だけでしょうか。

次回は、負帰還の安定性に触れたいと思います。(美斉津)