ブログ | AI×IoTでトイレ見守りシステムを作る(1) | ディー・クル―・テクノロジーズ | Page 5

bookmark_borderAI×IoTでトイレ見守りシステムを作る(1)

急速に変化する日本社会、求められるデジタル変革

日本社会は大きな変革の時を迎えています。若年層と高齢層の人口バランスが変化し、労働可能な人口が減少する一方で、高齢者の割合は急速に増加しています。このような社会構造の変化に対応するため、今生活設備の自動化やデジタル変革(DX)が不可欠になっています。デジタル変革にはコストが重要な課題の1つです。新しいソリューションを導入する際は、初期費用だけでなく、長期的なサポートコストも考慮し、費用対効果の高い選択をすることが求められます。

こんにちは。私は、ディー・クルー・テクノロジーズで「ハードウェア、センサー、処理技術(アルゴリズム・AI)、そして通信技術(ワイヤレスなど)」を組み合わせることで、コストの課題に対応できるソリューションを提供可能と考えているエンジニアです。 今回は、テクノロジーの力で、変化する社会に柔軟に適応し、より持続可能な未来を実現していけることを皆様にも感じてもらいたく、このブログを寄稿いたしました。

トイレみまもりシステムとは? ー今、トイレ監視が求められる理由

近年、病院や高齢者介護施設、パチンコ店、カフェ などでのトイレ監視システムの重要性が高まっています。それらの目的はシンプルで、利用者の異常な状態をできるだけ早く検知し、迅速な対処を可能にすることです。もし命に係わるような緊急時であったときは、わずかな遅れが健康や深刻な影響を及ぼす可能性がありますので、なおさらこうした対策が求められているのです。

トイレは 人目の届かない空間 であり、利用者が困っていても気づきにくい場所です。病院の患者、介護施設を利用する高齢者、パチンコ店などの娯楽施設やカフェのお客様 などが、万一お一人でトイレを利用中に急な体調不良が発生した場合、気づかずに放置されてしまい、場合によっては命にかかわるという高いリスクが常に伴います。

だからこそ、そこにトイレにIoTがあれば、お一人で利用していても、それぞれの環境で 迅速な異常検出を行って場合によっては命を救うこともできるかもしれない、と考えています。

盗撮と勘違いされないようにトイレを見守るには?

トイレの監視システムでは利用者の状態をセンサーで検出するという仕組みが必要です。しかし、盗撮・盗聴などの悪質行為と勘違いされないように配慮しなければなりません。ここが以前ブログでお伝えしたカメラを使った駐車場監視とは違ったトイレ見守りの難しいところです。

カメラ・マイクはご法度!

さて、利用者の行動を監視するには、結論から言うと次のような検知機能が求められます。

  • 占有検知 – トイレが利用者によって使用中かどうか
  • 動作検知 – 利用者に異常な動きがみられないか
  • 転倒検知 – トイレ内で利用者が倒れていないか

これらの検知を、カメラやマイクを用いずに、実施すること。これができれば、異常時に適切な対応ができる仕組み を作ることが可能になります。

トイレ見守りにたいする街の施設の課題感とは?

  • 病院・高齢者介護施設の課題
    • 病院では、看護師がナースステーションから複数の病室を監視 することが一般的です。しかし、監視システムの届かない、トイレの中で患者に異変があったとしても、すぐには気づけません。
    • 患者さんのプライバシーを守りつつ、異常な静止状態や転倒を自動で検知し、看護師に通知できるシステムを導入すれば、これによりプライバシーを守りながら患者さんの安全を確保 できます。
  • パチンコ店などの娯楽施設の課題
    • 医療・介護スタッフが常駐しているような設備であれば、まだ人的にリスク回避が可能ですが、医療スタッフが常駐しているわけではない、パチンコ店では、長時間座って遊技するお客様が多く、トイレをずっと我慢していたり、たまに立ち上がってトイレに行って用を足しているときに、お客様の中には体調を崩されてトイレ内で倒れるといったケースがあるそうです。

実際に娯楽施設の運営サイドでは、こうしたシチュエーションにおいてお客様の健康を守るために、異常検知システムが求められているようです。私もパチンコ店のような環境でこそ、IoTシステムによる異変の早期発見がより重要なキーになるのでは、と考えています。

パチンコ店が求めているトイレ見守りシステムとは?

さて、お店では、大きく分けて3つのお客様の異常を検知できるシステムを求めているそうです。

  1. トイレ内での体調不良による意識喪失
  2. 異常に長い滞在時間による健康リスク
  3. 転倒・転落事故の発生
トイレで慌てて転倒!

こうした緊急事態をプライバシーに配慮した環境でシステムが検知し、スタッフに通知すれば、迅速な対応が可能です。パチンコ施設側も安心安全なお手洗いの提供という付加価値も提供できます。

スマートなトイレ見守りシステムはどうあるべきか

さて、こうした状況をカバーする、スマートな見守りシステムとはどうあるべきでしょうか?

何はなくともプライバシー配慮型であること

繰り返しになりますが、トイレ監視システムの導入にあたっては、プライバシーの確保が最優先事項 です。監視にはカメラを使用せず、高解像度のRGBカメラやサーマルカメラの導入は避けるべき です。その代わりに、最近進化した別のセンサー技術を活用することで、プライバシーを守りながら監視を行えます。また、大規模施設もおおいこうした設備では量導入が見込まれるため、システムには 低コストでスケーラブルな設計 も求められます。優れた監視システムにするには以下の条件が必要です。

加えて3つのシステム条件が必要

  • 低コスト – IoTシステムの導入において、最も重要な点の一つは低コストです。病院や企業は限られた予算内で効率的に運営を行う必要があります。そのため、導入時のコストが抑えられ、手頃な価格設定であることが求められます。これにより、さらなる機会を捉えやすくなります。
  • スケーラブル – もう一つの条件はスケーラビリティです。多くの施設や部門に対して、スムーズにシステムを展開できる能力があることが重要です。つまり、必要に応じて規模を拡大したり、異なる環境に適応することができるシステムが望まれています。
  • 高精度 – 最後に、高精度もIoTシステムの重要な要素です。過検知や誤検知を防ぎ、正確に異常を検出する能力は、信頼性のある運用に欠かせません。特に医療機関では、患者の安全を守るためにも、精度の高いデータ収集が求められます。

これらの条件を考慮しながら、IoTシステムの導入を進めることで、より効率的で安全な運用の可能性が広がると考えます。

スマートトイレ見守りを可能にする技術とは?

プライバシーに配慮しながら、コストを抑え、確実に異常を検知できる仕組みを構築する技術が進化することで、病院やパチンコ店、に限らず、介護施設などさまざまなレベルの個室の安全性が向上します。 次回は、それら技術の進化についてみていきましょう。

bookmark_border東京大学大学院 青西教授が、ディー・クルー・テクノロジーズ(株)がFPGA技術協力したコヒーレント・イジングマシン(量子人工脳)をIEEEに論文投稿

コヒーレント・イジングマシン(量子人工脳)の研究者で、非常に汎用性の高いFPGA実装型サイバーコヒーレントイジングマシン(サイバーCIM)を開発した、東京大学大学院 新領域創成科学研究科の青西教授が、このたび共同研究者とともにその成果をIEEEに論文投稿されました。

 今回発表のサイバーCIMは、従来のFPGAシステムでは実現できなかったCDMAマルチユーザー検出器やL0圧縮センシングなどのアプリケーションを可能となり、その汎用性の高さが特長です。GPU実装に比べ演算速度が10倍以上となり、クラスタリングなどの並列処理によりさらなる演算速度向上も期待されます。
 ディー・クルー・テクノロジーズ(株)は、CTO長澤が中心となって今回発表のサイバーCIMへFPGA実装技術を提供。青西教授のご指導のもと、サイバーCIMの高速演算実現をサポートし、本論文にも名を連ねさせていただきました。本研究へ技術貢献する機会を与えてくださった大西先生はじめ共同研究者の皆様に感謝いたしますとともに、本論文発表を契機に青西先生の量子人工脳研究がさらに発展することを祈念いたします。

論文掲載サイト (IEEE Access)

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bookmark_borderシステムLSIのブレイクスルー技術③ 動的電圧周波数スケーリング(DVFS)(3)

こんにちは。今日は、DVFSの元となった、動的電圧スケーリング(DVS)開発の背景をお伝えします。

動的電圧スケーリング(DVS)とは?

近年マーケットからLSIの低消費電力化が強く求められていく時代でありながら、従来SoCのSPECで規定されていた設計補償動作電圧では、本来欲しい動作電圧に比べて大きなマージンを含んだ電圧が必要となり、それが低消費電力化の障害となっていました。

そこでDVSが登場したのです。一言で言うと、DVSは、SoC内のクリティカルパスが動作するぎりぎり最小の電源電圧Vddを適応的にSoCに供給する技術です。どういうことか分かりやすくするため、動的電圧スケーリング(DVS)開発の背景を図示しました。

図1 動的電圧スケーリング(DVS)開発の背景

左側が従来の設計補償動作電圧、右側がDVSです。SoCにおけるプロセスばらつき、温度変動、電源電圧変動、経年劣化等のworst条件を満足させるため、本来必要な動作電圧に比べ無駄に大きかった動作保証電圧の閾値を、右のDVSではクリティカルパスが動作するギリギリ+αの最小電圧をアダプティブにSoCに供給するため、動作電圧を低減し省電力化に貢献できます。

レプリカによるクリティカルパス監視がDVS技術の肝

図2にプロセスばらつき/温度変動等に対応したDVSを紹介します。SoC内部のクリティカルパスと同等の遅延時間を有するレプリカ回路を用意し、レプリカの遅延時間がクロック1周期内に入るギリギリ最小の電源電圧をSoCに供給します。

図2 DVS(プロセスバラツキ/変動対応)SoCの構成(特開2000-216337を参考に弊社作成)

無論電源電圧供給ではTsu/Thを考慮しますが、こうしたレプリカによるクリティカルパスモニターが、設計マージンの最小化を可能した結果、低消費電力化が実現しています。

DVSの効果

DVSは従来型に比べどの程度省電力化に効果があるのでしょうか?

図3にDVSの効果を示します。近年はMOS トランジスタの微細化により、サブスレッシュホールド・リーク電流が無視できなくなります。従来の固定電圧方式では、低Vthサンプルでリーク電流の増大に伴う消費電力増加が大きな問題になります。一方でDVSを採用すると、低Vthであっても回路の高速化を図れるため、電源電圧を低減でき、低消費電力化が図れますので、製品の消費電力SPEC低減に貢献できます。

  • MOS動作周波数 Fmax ∝ VddVth)・μ/ L2
  • 微細化するとリーク電流増大→リークが問題となるVth小サンプルをDVSで補償
図3 DVS有り、無しにおける消費電力効果の比較

DVFSによる最小電源電圧供給

DVSとDVFSの違いは、一言で言うとプロセスばらつき等のworst条件において、電圧だけでなく、動作周波数も考慮に入れて最小電源電圧を供給できる点です。図4にばらつき対応DVFSのブロック図、図5にばらつき対応のDVFSによる最小電源電圧供給を示します。

図4 ばらつき対応DVFSのブロック図

DVFSは、プロセスばらつき/温度変動/動作周波数に応じて、SoCが動作する最小限の電圧を適用的に供給します。SoC内蔵のCPUがレプリカからの遅延情報を電圧指示に変えるのですが、これがMPU/GPUの場合は負荷検出部及びVt検出部(Ring Osc)からの情報がレプリカに与えられます。

図5 ばらつき対応のDVFSによる最小電源電圧供給

ばらつき対応DVFSであれば、動作周波数に応じリーク電流が大きくなる条件で電源電圧を下げるので、リーク電力が保証されます。すなわち、Worst条件に応じて動的にLSIが動作可能な最低限の電圧を供給します。この結果リーク電流を含めて消費電力を最小化できます。

まとめ

最後にDVFSのまとめを示します。

1.プロセッサ系のMPU/GPU/SoCでは素子バラツキ対応を含めたDVFSが幅広く使われている。
2.DVFSは負荷状態に応じて、動的に電源電圧、クロック周波数を制御する。
3. 素子バラツキを考慮したDVFSは低消費電力化の効果が大きい。
4. DVFSは、今後プロセッサのみならず各種SoC(ASIC)にも幅広く使われていく。

いかがでしたでしょうか。この記事がLSIの低電力化における皆様のご理解の一助に慣れればうれしいです。