今回は電源に入れるフィルタについて紹介したいと思います。
なぜフィルタが必要なのか
フィルタは雑音を取り除く
電源になぜフィルタなどと面倒なものを入れるかと言うと、電源が理想的ではないからです。シミュレーションで使う電圧源や電流源はこの世の中にはありません。実際の電源は電圧や電流だけではなく出力インピーダンスも有限で周波数に依ってその値も変わります。また、色々な雑音が混じっています。
特にほんのわずかな電圧や電流を増幅するアンプにとって、電源に混じっている雑音は信号との区別がつかなくなり、致命的になります。
フィルタ自身も”雑音”を出す源
また、ややこしいのは雑音を出すのは電源だけではなく、自分自身でもあると言う事です。つまり、出力インピーダンスが有限の電圧源は、負荷に流れる電流が増えると電圧降下が発生して、これが負荷にとっては雑音になります。デジタル回路で扱うデータに応じてヒゲのようなスイッチングノイズが出るのは、負荷電流が変わっていることが発端になっているのです。
そんなわけで、電源入れるフィルタは電源が出す雑音だけではなく、自分自身が出す雑音も取り除くことも目的なのです。
フィルタを作成する
では実際に電源フィルタを作ってみたいと思います。
回路の負荷を想定し、カット(除去)周波数を定める
まずは回路の負荷を1KΩと想定します。3.3V電源であれば3.3mAが流れている事になります。デジアナ混在のSoCなどに使われているBGRなどの基準電源と思ってください。
次に電源からの雑音をカット(除去)する周波数を1MHzと決めます。
フィルタ・インダクタの組み合わせを算出する
フィルタの方はLCの2次のLPFとします。共振周波数fcは次式で表されるので、
—————– (1)
共振周波数fcを10MHzとしたときのフィルタ定数Lf1,Cf1の組み合わせを計算してみます。なお、インダクタLf1は(1)式から次の様に計算できます。
—————– (2)
回路を組んで、周波数特性を計算する
これらの組み合わせを上の回路図に適用して、電源V0を信号源として、OUTの周波数特性を計算してみると・・・
組み合わせに依って、ピーキングが発生しています。ピーキングの有無や量は、負荷のR0=1KΩに対して、共振する周波数のインピーダンスが大きいか小さいか、また負荷に対して並列に接続されているのか直列になっているのかにも依ります。
フィルタを調整する
フィルタ値を決めて部品を選定する
この辺りは後で詳しく説明することとして、フィルタの値を仮に決めたいと思います。
コンデンサは200pFより少し小さい方が良さそうなので150pFにします。これを使って計算で求めたインダクタは170uHなのですが、部品としては系列のある180uHとします。
回路の周波数特性・過渡応答を確認する
この回路の周波数特性と電源の起動応答を見てみると次の様になります。
これで周波数特性も過渡応答も確認できたので、これで完了!と行きたいのですがまだ負荷電流変動が残っています。
負荷電流変動の確認をおこなうと。。
前の回路図の負荷変動用電流源I3に下記のようなランダムな負荷電流を加えてみます。
ランダムな負荷電流は10mAピークとしましたが、上の図の様にフィルタ出力電圧OUTは大きく低下して1V付近まで落ち込んでしまい、このままでは回路は誤動作してしまいます。また、負荷電流が減ったとき、電源電圧より高い電圧が印加されるので、デバイスが破壊してしまう可能性もあります。
やはり難しい電源フィルタの設計
このように電源フィルタの設計は意外と難しく、電源回路や負荷となる回路の動作を理解し、これらに合わせて最適なフィルタの型や定数を設計しないと、雑音を除去するはずの電源フィルタが、逆に雑音や過剰な電圧を発生させてしまう回路になってしまい、悪くするとデバイスを破壊してしまう様な惨事になりかねません。
次回は上の回路をどう直していくかを紹介したいと思います。