ディー・クルー・テクノロジーズ Blog

bookmark_borderPLL(5)

だいぶ時間が空いてしまいましたが、PLLのその5を書きたいと思います。

ビヘイビアモデルをつかう

応答速度とジッタの量の関係を確認する

今回は、ビヘイビアモデルを使って応答速度とジッタの量の関係を確認してみたいと思います。

図1

図 1にビヘイビアモデルを使ってPLL全体の回路を示します。(PLLその2-PLLその3で使って物を同じです)

まずはノイズ源ですが・・・VCOの制御電圧に意図的に雑音源を入れました。

evco     out      0        value=fo*(2/(exp((Vref-v(vcn))/Kv)+1))

vnoise   vcn      vc       noise fmin=10 fmax=10MEG THN=0.01n

1行目はVCOの入出力(制御電圧=>出力周波数)特性を計算式で書いたもので、使ったパラメータは下記の値です。

.param fo=100

 .param dfp=’5/3.3′

 .param Kv=’1/(2*dfp)’

 .param Vref=1.65

.param fref=100

2行目が雑音源になります。VCO外部からの制御電圧Vcに雑音を加味してVcnとし、この電圧がVCOの発振周波数を決めるようにしています。雑音は10Hzから10MHzの熱雑音(白色雑音)で、0.01nV2/Hzの大きさです。

固定電圧を与えてPLL=OPENで過渡解析を行う

この状態で、PLLをOPENにして(VCO入力のR3を外して)Vciに固定電圧をあたえて雑音を含めた過渡解析を行った結果どうなるかと言うと、次のようになります。

図2

位相比較器の出力電圧は、雑音が無い時(V(PH)_1)に対して±1周期以上ずれていて、ゆらゆらしていることが分かります(V(PH)_2~6は雑音を考慮した過渡解析結果です)。

つまり、ジッタが1周期を超えてしまっている上に安定していないと言っていて、このままでは全く使い物になりません。これはPLLをOPENにした結果なので、VCOを単体で使うとこうなってしまいます。(発振器にクリスタルを使ったVCXOやTCXOなどは格段に安定しているので、こうはなりません)

PLL=CLOSEで応答速度毎にジッタの変化を見る

それでは、PLLをCLOSEにしてみたいと思います。

CLOSEする際、PLLの応答速度はフィルタ定数などを変更して下の3種類にしました。

図3

PLLの応答速度を、25KHz、250KHz、2.5MHzと変えたときにジッタ(つまり、V(PH)の動き)がどのように変化するかを見てみましょう。なお、それぞれのPLLの定数は以下の通りです。

PLLの応答速度=25KHzの時

25KHz

.param c1=160p r2=1k

.param c0=160n r0=100k r1=100

図4

PLLがCLOSEに成ったので、ゆらゆらゆれている様子はなくなりましがが、V(PH):位相比較器の出力電圧が±1近くまで触れているので1周期近い位相雑音、つまりジッタが出ていることに成ります。

PLLの応答速度=250KHzの時

250KHz

.param c1=16p r2=1k

.param c0=16n r0=100k r1=1k

図5

PLLの応答速度を早くすることで、だいぶ良くなりましたがまだ1周期の半分くらいのジッタが出ています。

PLLの応答速度=2.5MHzの時

2.5MHz

.param c1=1.6p r2=1k

.param c0=1.6n r0=100k r1=10k

図6

1周期の20%くらいのジッタになりましたので、これならクロックとして使えそうです。

PLLエラーアンプ出力の動きを比較する

PLLのエラーアンプ出力(図 1のVo)の動きを比較してみると、次のようになります。

応答速度:25KHz  

図7

応答速度:2.5MHz  

図8

応答速度:250KHz  

図9

応答速度が速いほど、エラーアンプの出力電圧が活発に動きます・・・当たり前のことですが。

つまり応答速度が速いと、いち早くジッタを補正し、正しい位相にあわすことが出来るので、ジッタが少なくなるのです。

次回は・・・このまま雑音について話を進めたいと(今は)思っていますが、気が変わってしまうかもしれません。その時はご容赦下さい。

ではまた。

bookmark_borderPLL (4)

僕はPLLの特徴は”時間を扱う”ことだと思っています。

時間を扱うと言う事は・・・リミッタ(制限)が無いとも言えます。電圧や電流なら普通は電源が供給できる範囲を超えた状態にはならないので、上限/下限があります。しかし、時間には上限も下限もありませんし、制限をかけようも無いのです。

なので、周波数差や時間差などの時間を電圧に変換する位相比較器は、なにかタイムマシーンのような特別な回路の様に思えます。位相比較器の話は別に機会にすることにして、今回は”ジッタ”について触れてみたいと思います。

PLLを設計すると”ジッタ(Jitter)”と言う単語を必ず目にします。この単語の英語の意味は・・・”神経質に振る舞う、イライラする”です。ジッタはPLL回路の色々なトラブルの原因になる事が多いので、ジッタと聞くと神経質にもなるし、イライラもしますが、電気用語での意味は”時間軸の雑音”と考えて良いと思います。

例えば、1MHzの発振器は1usec毎に1周期を繰り返し正弦波やパルスを出力しますが、この周期が1.1usecに成ったり、0.95usecになったりと出力するたびに間隔が異なることが、ジッタです。ジッタは雑音なのでジッタが全く無い信号はこの世にはありえません・・・もしあるとすれば、世界標準時を決める原子時計のパルスはジッタが無い(と決めた)と言えます。

雑音が大きくなると問題が起きるのが世の常で、ジッタも大きくなると問題を引き起こします。

S/N設計をするのと同じように、ジッタもきちんと設計しないとトラブルが発生します。

PLLのジッタに関連する機能は、大きく分けて2つに分かれます。それは、

(1)ジッタの少ないクロックを広い周波数帯で出力する事(シンセサイザー)
(2)ジッタだらけのクロックをきれいなクロックにして出力する事(ジッタクリーナー)

の2点だと思います。まずは、(1)についてです。

実は、PLLに不可欠な電圧制御発振器(VCO)は大きなジッタ源なのです。

VCOの制御信号に雑音があれば、その雑音に応じて周波数が変化し、周波数が変化するということは周期が変わるのでジッタになります。制御信号に全く雑音が無くても発振器のトランジスタや抵抗などから様々な雑音が出ているので、これらが周波数に変換されてジッタになって出力されます。VCOの感度(電圧 => 周波数の変換効率)が高いほど出てくるジッタも多く、出来るだけ広い周波数範囲を一つのVCOでカバーしようとした時には、ジッタも多くなることを覚悟する必要があります。ジッタの大きな特徴は、ほっておくとどんどん増えるって事です。

例えば、周波数が1Hzずれた場合0.1sec後には36°ずれ、0.2sec後には72°位相がずれてしまいます。”周波数(差)を時間で積分すると位相(差)になる”ので、周波数がちょっとでもずれていると、時間経過と共に位相ずれ(つまりジッタ)が増加します。

VCOのジッタを減らすには、ジッタを検出して”正しい位置”に”すばやく”戻す必要があります。

“正しい位置”は基準信号としてPLLに入力されます。これに使うのが水晶を使ったVCXOです。

この発振器は水晶に電圧をかけて固有振動数を取り出しているため、非常に周波数が安定していてジッタが少ないです。しかし、周波数の可変範囲が狭いため色んな周波数では使えません。

このジッタの少ないVCXOを基準としてPLL回路を構成し、VCOのジッタを補正すれば、広い周波数範囲でジッタの少ない信号を取り出すことが出来るようになります。

“すばやく”戻すにはPLLの応答速度を早くする必要があります。

ジッタはほっておくとどんどん増えるので、低い周波数の方(周期が長いほど)その量が多い事になります。PLLの応答が間に合う周波数であれば、基準からずれた位相を基準に合わせる事ができるので、ジッタが無くなる事になります。

PLLの応答速度は、オープンループ特性(PLL(その2)を参照ください)の利得が0dBとなる周波数とほぼ同じになります。上の図では1MHzなので、1MHzより遅いジッタが修正できることになり、その分のジッタはVCO出力からは無くなる事になります。

次回は、ビヘイビアモデルを使って応答速度とジッタの量の関係を確認してみたいと思います。(美斉津)

bookmark_borderPLL (3)

今回は「PLL(その3)」です。

前回はパーツ(位相比較器、VCO)をビヘイビアモデルでモデル化し、PLL全体の周波数特性や過渡解析の例を紹介しました。

今回は、PLL特有に問題(キャプチャーレンジなど)に振れたいと思います。

実験室で”PLLがロックしない”といった叫びを聴いたことがあるでしょうか?僕は何度も叫びました。

では、なぜPLLがロックできないかと言うとそれば「位相比較器に入力される2つに信号の周波数差にフィルタが応答できない」からです。

別の言葉で言うと、周波数差がキャプチャーレンジより大きいとPLLは引き込めなくなってしまいます。

PLLに関する文献は山ほどあるので、キャプチャーレンジの計算は文献にまかせて、PLLが引き込めていない時には何が起きているのかを今までのビヘイビアモデルを使って調べてみたいと思います。

前回のVCOとPLL回路を今回も使います。回路定数も前回と同じで先ずは、

.param r0=510 r1=10k c0=1n r2=1k c1=10pとします。

この回路定数だと位相余裕も十分だし、入力する周波数frを9,10,11MHzとした場合のどれでも1.5usec程度で引き込めている事が過渡解析で分かります。

では、フィルタ時定数を変更(注1)してゲイン特性が0dBとなる周波数を1桁遅くした時にどうなるか調べてみると・・・・

注1).param r0=510 r1=1k c0=100n r2=1k c1=100p

位相余裕などは十分取れているので問題は無いのですが、過渡解析は”PLLがロックしない”と叫んでいます!

フィルタの時定数を変更したことで、位相比較器のビート信号(差周波数で振動する)をVCOに伝達できず、VCO制御電圧が十分振れずにVCO出力周波数が目標周波数に到達できないために、PLLが引き込めなくなってしまっています。

PLLを使ってジッタを抑圧する時にはPLLの帯域は狭いほう都合がいいので、ゲイン特性が0dBとなる周波数をなるべく低く設定しようとします・・・・そして、上のように罠にはまってしまうのです。

あらゆる電子回路で使われているPLLですが、確実に動く設計をするにはAC解析だけでは不十分で、必ず過渡解析が必要になります。しかし実際の回路をそのまま過渡解析に使っていたら莫大な時間が必要になり、非現実的です。そんな時に便利なビヘイビアモデルを紹介しました。

次回はエミッタ接地やソース接地の増幅器についての予定です。(美斉津)

bookmark_borderPLL (2)

今回は「PLL(その2)」です。

前回はPLLに不可欠な位相比較器をビヘイビアモデルを使ってモデル化しました。

今回は、電圧制御発振器(VCO)をモデル化してPLL全体の動作を、位相や周波数を分かりやすい電圧に置き換えてPLLを説明してみたいと思います。

PLLは、位相比較器、フィルタ+チャージポンプ、電圧(または電流)制御発信器、分周器の4つの要素で作る事ができます。

(チャージポンプや分周器はPLLの性能や機能を高めるための回路で、PLLに必須の回路ではありません。)

VCOも位相比較器と同じように1MHz=1Vと定義して等価モデルを作ります。こちらは、位相比較器より簡単に電圧制御電圧源(VCVS)のみモデル化できます。

.param fo=10

.param dfp=’0.1/3.3′

.param Kv=’1/(2*dfp)’

.param Vref=1.65

e0 out 0 Value=fo*(2/(exp((Vref-v(vc))/Kv)+1))

周波数(1MHz)を電圧(1V)で表現すればよいので好みの計算式を入れるだけです。

上の例では自然対数を使って、Vcに1.65Vを与えた時に10MHz(10V)が、Vc=0~3.3Vと変えると周波数は9.5~10.5MHzと変化するようにパラメータを設定しています(下図参照)。

続いて前回の位相比較器(PC)と合わせて、PLL全体をシミュレーションしてみます。

今回のVCOと前回のPD(位相比較器)をサブサーキットにして、ラグリードフィルタ(R0,R1,C0)と利得100dBの圧縮アンプ(E0)、VCOの制御電圧の雑音除去用に1次のLPF(R2,C1)で構成しています。R3はオープンループ特性などをシミュレーションするときに都合が良いので、入れていますが、実際には0Ωにします。

PDの出力PhもVCOの制御Vciも電圧なので、実際にPLLに使う回路をそのまま使ってシミュレーションが出来るところが都合いいところです。

R3をOPENにしてシミュレーションしたオープンループ特性を上図に示します。利得特性(赤線)が0dBとなる周波数(1MHz)の位相が85°であることから、十分な位相余裕が確保できています。このときの各部品の定数は下記に通りです。

.param r0=510 r1=10k c0=1n

.param r2=1k c1=10p

このままR3をSHORTにして、過渡解析を実施した結果を下図に示します。

2usecでレファレンス周波数(FR)を10MHz => 11MHzと変えたときの過渡解析です。約1uscで安定して収束しています。

PLLは時間に関連する操作をする回路なので理解しにくいし、実際の回路のまま過渡解析をすると時間がかかる嫌な回路なのですが、電圧制御発振器(VCO)と位相比較器(PD)の扱う周波数や位相をビヘイビアモデルで電圧に置き換えることで、解析時間も短くなるし、理解も簡単になると思います。

次回は、PLL特有の特性(ロックレンジやシーズインレンジなど引き込みに関する特性)を今回のモデルを使って説明したいと思います。(美斉津)

bookmark_borderPLL (1)

今回は「PLL(1)」です。

PLLはPhase Locked Loopの略なので、位相がロック(つまり固定した)ループなのです。あらゆる電子器機や機械などPLLを使わない物は無いと言って良いくらい使われています。その基本的な仕組みを何回かに分けて紹介したいと思います。

ループって名前がついていることから、PLLはネガティブフィードバックループ(負帰還)の回路方式です。

Phase,つまり位相を固定(Lock)するためのフィードバック回路です。

普通の負帰還回路と何が違うのかというと、扱う対象が”位相”という時間軸のパラメータを扱うことです。

電圧や電流をある基準に合わせる事は想像しやすいですが、位相をある”基準の位相”に合わせる事は想像するのが難しいのではないかと思います。位相や周波数を分かりやすい電圧に置き換えてPLLを説明してみたいと思います。

PLLは、位相比較器、フィルタ+チャージポンプ、電圧(または電流)制御発信器、分周器の4つの要素で作る事ができます。

(チャージポンプや分周器はPLLの性能や機能を高めるための回路で、PLLに必須の回路ではありません。)

要素間の接続は上の図のようなのですが、問題なのはその扱う信号(情報)が全て電圧(もしくは電流)ではない事です。

電圧制御発振器から出てくる重要な情報は周波数だし、位相比較器は二つの信号の周波数や位相を比較して電圧に変換します。これらの種類が異なる情報を扱う上で重要なポイントは、”位相は周波数の時間積分”という基本的な法則をどう考えるかです。”位相は周波数の時間積分”とは・・・「1Hz周波数がずれた2つの信号の出力は、1秒後に1周期ずれ、2秒後には2周期、3秒後には・・・と時間と共にドンドンずれる」・・・ということなのですが、当たり前すぎてピンとこないと思います。

位相比較器が行っている事を周波数や位相を電圧に置き換えて考えてみます。

例えば、1MHz=1V、1周期(360°)=1Vと定義します。

1MHz周波数がずれている2つの信号間には1usec後に1周期分のずれが出る事になります。

つまり、”1Vずれた信号を入れた回路の出力が1usec後に1Vになるような回路”にすれば、位相比較が出来る事になります。

電子回路で上の回路は電流源とコンデンサで意外と簡単に作れます。

なので、電流をコンデンサに入力すると、時間で積分した結果が電圧として出てきます。回路は下のようになります。

f1とf2に入力した電圧(つまり周波数)差を時間で積分した結果がPoutに出てくるわけですが、差電圧が1V(つまり1MHz)の時、1usec後のPoutは1Vになるように、C0を1uFにしています。

入力に1Vと1.1Vを入力すると・・・

周波数に発生したずれを積分した結果がPoutとして出力されます。

この回路は電源などが無いので、入力に差電圧がある限り出力は無限大まで(計算機がオーバーフローするまで)上がります。

しかし、実際の回路では位相出力電圧は、三角関数やのこぎり波などの繰り返しの波形になります。これは、位相比較器には0°と360°の区別がつかないからです。

上の回路のE0(電圧依存電圧源)に関数を入れて、出力電圧を細工します。

回路ではうまく出来なかったので、ネットリストを直接いじりました(赤字のところです)

cc0 po1 0 1e-6

gg0 po1 0 f1 f2 1

ee0 pout 0 value=atan(tan(m_pi*v(po1)))/m_pi

余談ですが、CADも便利になって来ているのですが、簡単な変更ならテキストを直接いじったほうが断然早いです。

Poutにのこぎり波が出るようになります。

PLLは時間に関連する操作をする回路なので、結構理解しにくし、実回路のまま過渡解析をすると時間がかかる嫌な回路の部類に属しているのですが、ビヘイビアモデルを使うことで、解析時間も短くなるし、理解も簡単になると思います。

次回は、VCOをモデル化して、位相比較器を含めたPLL全体の動作を説明したいと思います。 (美斉津)

bookmark_border負帰還 (3)

少し間が開いてしまいましたが、今回は前回触れなかった「ゲイン余裕」とか「位相補償」について話してみたいと思います。

まずは「ゲイン余裕」が無い場合、どんなことが起きるかを紹介します。

上のボード線図は、位相余裕は90°以上あり十分ですが、ゲイン余裕は9dB程度しかない状態です。

この状態で出ループを閉じてアンプの入力=>出力の周波数特性を見ると、ゲイン余裕が少ない周波数(この例では2MHz以上)にピーキングが発生します。

アンプの出力波形は、一見よさげに見えますが、拡大してみると・・・

ゲイン余裕が確保できているときの波形(赤色)に対して、ゲイン余裕がないときの波形(青色)は歪んでしまっています。

現実の回路では、ゲイン余裕だけがなくなるケースは少ないため位相余裕の方に注意が行きますが、ゲイン余裕も目を配らないと後で痛い目を見ます(汗)。

続いて位相補償について触れたいと思います。

たいていの負帰還回路は上の様な構成になっています。制御したい成分を”検出回路”で検出し、目標値と比較した後、平滑化して元のアンプの反転入力に戻します。平滑化は無くてもすむ場合もありますが、帰還回路で発生した雑音を除去するためにLPF(Low Pass Filter)を入れるケースがほとんどです。

出力電圧の平均をある値に制御する(一致させる)ときなどは、平均値を検出するためにLPFを使います。このような場合、検出回路と平滑回路の両方に位相が遅れ、位相余裕がなくなりループが不安定になり、リンギングが発生します。

これを改善するためには平滑回路と(平均値)検出回路の時定数を”大きく離すこと”が有効です。

青の線の場合は、2桁しか時定数に差が無いのですが、赤の線では、4桁の落差を時定数につけています。

時定数に落差をつけることで、リンギングはなくなります・・・しかし、収束するのに時間がかかるようになってしまいます。

別の方法で、位相余裕を改善するには”位相戻し”回路を使う方法があります。

上は普通の平均値検出回路(単なるRCのLPFです)ですが、下は位相戻し回路を追加した平均値検出回路です。

抵抗R2が追加されただけなのですが、R2とC1が微分回路になっているため位相が進み、遅れていた位相を補正することが出来ます。

位相戻し回路が入った赤線は位相余裕も多く確保できていて、リンギング量が少なくなっていることが分かります。

位相補償の方法として”時定数を大きく離す”、”位相戻し回路を入れる”の2種類を紹介しましたが、後者のほうが応答速度(収束)を遅くすること無く安定動作をするので広く使われています。

負帰還回路を安定動作させるためには”位相が0°の時に利得を正にしないこと” が基本なので位相補償のやり方は様々ですが、負帰還回路に共通して言えるポイントは以下の2点です。

     ✔ 検出は迅速に。

     ✔ 比較結果はゆっくり戻すこと。

会社や組織をうまく機能させるコツも負帰還回路と一緒で、”情報を迅速に集めて、的確に判断し、じっくりと実施する”こと、すなわち、”位相余裕を確保すること”ではないかと思います。

次回はPLLの話を始めたいと思います。

bookmark_border負帰還 (2)

今回は「負帰還の安定性」について触れてみたいと思います。

負帰還は、戻ってくる値が入れた信号に対して負(つまり、反対)なので、負帰還といいますが、負ではなくなると「正帰還」になります。正帰還は入力した信号と同じ向で信号が帰ってくるので、いっそう入力信号は強調されます。その結果、「発振」という現象が起きます。

意図して発振するのはいいのですが、そうでない場合は・・・いろいろと問題が起きます。

発信器を作ろうとするとなかなか安定した発信ができないのに、発信しなくても良い所で安定して発振する発信器を作ってしまった経験がある方もいると思います。

不期間が不安定の時はどんなことが起きるのか、一例を紹介してみたいと思います。

不調をうったえる上のような帰還回路がついている増幅器の出力波形を見たら下のような波形が出ていて、

不調の原因はこの”うねり”じゃないかと思って、波形に続いて周波数特性を取ってみると・・・

50kHzあたりにピーキングが出ている事が分かりました。どうもこのピーキングが原因のようです。

帰還回路で発生するこういった問題の原因を調べるのに「ボード線図」言うものがあります。

ボード線図は、横軸に周波数、縦軸に利得と位相を書いたグラフです。

ボード線図を書くには、帰還回路の一部を切って(ループを開いて)信号源を入れます。

この信号源の信号がどのような振幅と位相で元に場所に戻ってくるかをプロットします。

つまり、A点の信号がどのくらいの大きさになって、また、どのくらい遅れてB点に戻ってくるか と言うことを周波数を横軸にして調べた結果が「ボード線図」です。

負帰還が安定して動作するかを判定する重要なパラメータが、「位相余裕」と「ゲイン(利得)余裕」です。

「位相余裕」は利得が0dBとなったときに、どれだけ位相が0°に対して残っているかを言い、

「ゲイン余裕」は、位相が0°になった時に、どれだけゲインが0dBから負の値になっているかを言います。

どちらのパラメータも、“位相が0°の時に利得を正にしないこと” をチェックするものです。

位相が0°であるという事は、A点と同じ位相でB点に信号が戻ってくることを意味していますし、利得が正という事は、A点から入力した信号が減衰しないでB点に帰ってくる事です。

入れた信号と同じタイミング(位相)で、入れた信号より大きな信号が戻ってきて加わったら、信号はどんどん大きくなり・・・発振が始まってしまいます。

位相が0°の時に利得を正にしないことは、発進しないための条件です。

(逆に、位相が0℃の時に利得を正に保つこと が発振し続けるための条件です)

上の例では、ゲイン余裕は20dB以上ありますが、位相余裕が15°程度しかなく、これがピーキングの原因であったと言えます。

また、ピーキングの出る周波数(50KHzくらい)は、利得=0dBとなる周波数とほぼ同じになります。

位相余裕が足りないので、回路を修正して位相余裕を確保してみましょう。

(どのように回路を直したかは、周波数特性と部品定数の関係を含めて、別の機会に説明したいと思います)

位相余裕が50°程度まで増え増した。この状態で、負帰還回路を閉じてアンプの周波数特性と波形を観測してみると・・・

ピーキングが減って、”うねり”の時間も量も少なくなったことが分かると思います。

次回は今回触れなかった「ゲイン余裕」に触れながら、位相余裕やゲイン余裕を改善するために行う「位相補償」について

話してみたいと思います。

bookmark_border負帰還 (1)

今回はPLLの元となる「負帰還」について話してみたいと思います。

負帰還は何かを制御するときの基本中の基本です。これを理解していないと、回路が不安定になり時には発振し、大きな問題を引き起こしたりします。

負帰還回路の帰還とは、信号が戻ってくるから帰還といい、戻ってくる値が入れた信号に対して負(つまり、反対)なので、負帰還といいます。

信号Aは処理Aを経由して信号Bに変化するとします。しかし、信号Aを送った人は、本当に信号Bに変化したか分かりません。処理Aがあまり信用出来なかった場合どうするかというと、信用できる処理Bを使って信号Bの様子を聞きだそうとします。もし信号Bが目標とずれていたら、ずれている分だけ信号Aを補正し、信号Bを目標に一致させます。

このような面倒な事をしなくても、処理Aをきちんと設計して、目標通りに動作するようにしたら良いと考える方もいると思います。確かにその通りなのですが、電子回路の中にも得意/不得意があって、オールマイティな回路はなかなか出来ないものです。

通信系の回路で、DCフィードバックという回路(別の名前で言うかもしれませんが)があります。この回路を例にして、もう少し具体的に説明してみたいと思います。

微小信号を増幅して、デジタル回路でも判別できるように増幅する”広帯域アンプ”は、出来るだけ高速に動作するように寄生容量を少なくする必要があります。そのため、トランジスタのサイズは小さいほうがいい事になるのですが、小さくなると絶対値がバラツクだけではなく、相対精度も悪くなり、適切なバイアス状態に増幅器を保てなくなります。

これを防ぐために出力電圧の平均値(つまりバイアス)を検出して、基準電圧(目標)と誤差アンプで比較し、入力を補正する回路を追加します。平均値を制御するわけですから、誤差アンプは高速動作する必要は無くなりトランジスタサイズを十分大きく出来ます(でも、チップサイズとのトレードオフがありますが)。

このDCフィードバック回路を使うことで、温度や電源が変わっても、製造ロットが変わっても、常に広帯域アンプの出力バイアス電圧は基準電圧と同じなので、この次の段、例えばA/Dコンバータは安心してデジタルに変換できる事になります。

上図のような小さな信号が入力された時、広帯域アンプが0.5V付近を増幅できるようにバイアスされていたら、出力にきちんと増幅した信号が出てくるのですが、

バイアスが上にずれて”0.55V”付近を増幅するようになっていたとしたら、下半分にしか信号が出てこなくなり、デジタル信号変変換が出来なくなります。

DCフィードバックはこの状態にならないように、入力信号のレベルを(または広帯域アンプのバイアスを)調整する役目をしています。

通信系の回路では、主信号通すブロックには低雑音、線形性や高利得、広帯域、高速、高駆動などの厳しい要求が課せられるため、主信号系回路のバイアス制御などは負帰還回路を用いて行う事が一般的です。

オールマイティな回路が作れたら負帰還回路は要らないかもしれませんが、現実はそんなにうまくいきません。

主信号系と制御系(負帰還回路)がお互いに補正しあいながら全体としてうまく動作しているところは、仲の良い夫婦と似ていると思うのは僕だけでしょうか。

次回は、負帰還の安定性に触れたいと思います。(美斉津)

bookmark_borderインピーダンスマッチング

D-CLUEには大きく分けて3分野のエンジニアが在籍しています。それはアナログデジタルファームの3分野です。
代表の石川は、D-CLUEを創立する時から、この異なる3分野のエンジニアを集めて会社を創りました。この異なる分野のエンジニアがそれぞれの分野の目線から、同じ問題に取組み、団結と「合わせミソ」で幾多の難題を解決してました。

異なる分野のエンジニアが一つの仕事に団結して取り組むためには、相手の分野の事を深くは理解はできなくても、ある程度、感覚的に分かっている事が必要なのではないかと思います。
私はアナログのエンジニアですが、アナログだけを分かっていれば済むかと言うと、そうでは無く、
デジタル回路が何をしているのか、ファームはどう制御しているか等をある程度分かっていないと、
団結して一つの仕事に取組めないのでは無いかと思います。

そんな背景もあり、今回のブログのテーマは、「アナログ回路を分かり安く説明して、デジタルやファームのエンジニアに感覚的に知ってもらうこと」です。

初めての方もいらっしゃるかも知れないので、簡単な自己紹介をさせて頂きます。

私は美斉津と申します。

1986年に電気工学科を卒業したのですが、アナログ電子回路は避けて通って来たので、卒論は、今となっては名前すら見る事がなくなった「FORTRAN」を使った光線追跡プログラムに関するものでした。そんな学生でしたので、アナログの世界には会社に入ってから出会いました。
そして、アナログの世界の魅力に取り付かれて、気が付けば長い年月が過ぎていました。

インピーダンスマッチングとは

今回は、「インピーダンスマッチング」について触れたいと思います。

デジタル回路の動作速度が速くなると、今まで経験した事のない問題に直面します。
なぜか信号が化ける、書いたはずのデータが書けてない、時々誤動作する、などの頭の痛い問題です。
その原因のひとつとして「インピーダンスマッチング」があげられます。
RFなどの高周波が絡む仕事をしている方にとっては馴染みの深い単語ですが、デジタル回路を中心に仕事をされている方には、非常に分かり難いのではないかと思います。
学術的には「伝送路の特性インピーダンスと終端抵抗のインピーダンスが整合している事」と書いてあるのですが・・・何を言っているのか理解し難いものがあります。

インピーダンス不整合とは

インピーダンスがマッチングしないと・・・何が問題なのか?

インピーダンスが整合(つまり一致)していないと何が起こるかと言うと、「反射」が起こります。
つまり、配線やプリント版のパターンを通ってきた大事な信号が反射してしまい、エラーや誤動作を引き起こします。

なぜ反射が起きるのか

それでは、なぜ反射するかというと・・・

しっかりと説明するには難しい計算式を沢山使わないといけないので、簡単な例で説明しようと思います。長いロープ(出来れば柔らかいほうがいいです)を用意して床に一直線に伸ばして置きます。
片方を誰かに足で踏んでもらっておいて、反対側の端を持って”1”を伝えるつもりで勢いよく持ち上げてすぐ下げます。そうすると、ロープに”山”ができ、これが反対の端に向かって走って行くのが見えると思います。反対の端に届いた時に何が起きるかよく観察してください。
“小さい山”がちょっと戻ってきませんでしたか? これが”反射”です。

今まで、ロープを伝ってきた信号の”山”が急にロープが無くなってしまうので、行き場を失って戻ってきたのです。つまり、今まで信号を伝えてきた媒体が急に変わり、片側には山があるのに、もう片側は平たんな状態になってしまい、“連続である”という自然現象の原則と矛盾します。この矛盾を解消するために、反対方向の山が発生します。これが反射が生じる理由です。
この現象は、電気信号だけではなく”音”や”光”でも一緒です。今まで飛んできた媒体の空気とは違う山に、声が当たって反射したのが”やまびこ”です。

反射を発生させないために必要なこと

では、反射を発生させないようにするには・・・

媒体が変わったと気づかせないように、つまり、ロープが切れていないように見せればいいのです。
具体的には、ロープの端を足で踏んで固定しないで動くようにしてやれば、反射は起きなくなります(と思います)。
アナログ回路設計は難しいとか、高速伝送は理解しにくいとか良く言われます。
でも、アナログ回路は我々身の回りに「自然」という非常に優れたお手本を真似をしているだけなのでは? スケール(時間軸を含めて)が違うだけでないか?と感じる事がよくあります。
“アナログ”の語源は、英語のanalogy(類似性、類似学)で、”類似している”から連続していると言う意味と変化したと聞きます。

ロープのように”連続”した信号を扱うアナログ回路設計

つまり、連続した信号を扱うからアナログ回路なのですが、連続しているのは信号だけではなく、電子回路で起きている現象が我々の回りの自然と密接な関係にあり、まさに連続しているのでは?と感じている今日この頃です。感覚的な説明になってしまいましたが、次回は具体的な回路を使い、波形の歪み方などを含めて、インピーダンスマッチングを説明したいと思います。

(2008/1/8 弊社 匠ブログ記事より加筆転載)