ディー・クルー・テクノロジーズ Blog

bookmark_borderシステムLSIのブレイクスルー技術③ 動的電圧周波数スケーリング(DVFS)(3)

こんにちは。今日は、DVFSの元となった、動的電圧スケーリング(DVS)開発の背景をお伝えします。

動的電圧スケーリング(DVS)とは?

近年マーケットからLSIの低消費電力化が強く求められていく時代でありながら、従来SoCのSPECで規定されていた設計補償動作電圧では、本来欲しい動作電圧に比べて大きなマージンを含んだ電圧が必要となり、それが低消費電力化の障害となっていました。

そこでDVSが登場したのです。一言で言うと、DVSは、SoC内のクリティカルパスが動作するぎりぎり最小の電源電圧Vddを適応的にSoCに供給する技術です。どういうことか分かりやすくするため、動的電圧スケーリング(DVS)開発の背景を図示しました。

図1 動的電圧スケーリング(DVS)開発の背景

左側が従来の設計補償動作電圧、右側がDVSです。SoCにおけるプロセスばらつき、温度変動、電源電圧変動、経年劣化等のworst条件を満足させるため、本来必要な動作電圧に比べ無駄に大きかった動作保証電圧の閾値を、右のDVSではクリティカルパスが動作するギリギリ+αの最小電圧をアダプティブにSoCに供給するため、動作電圧を低減し省電力化に貢献できます。

レプリカによるクリティカルパス監視がDVS技術の肝

図2にプロセスばらつき/温度変動等に対応したDVSを紹介します。SoC内部のクリティカルパスと同等の遅延時間を有するレプリカ回路を用意し、レプリカの遅延時間がクロック1周期内に入るギリギリ最小の電源電圧をSoCに供給します。

図2 DVS(プロセスバラツキ/変動対応)SoCの構成(特開2000-216337を参考に弊社作成)

無論電源電圧供給ではTsu/Thを考慮しますが、こうしたレプリカによるクリティカルパスモニターが、設計マージンの最小化を可能した結果、低消費電力化が実現しています。

DVSの効果

DVSは従来型に比べどの程度省電力化に効果があるのでしょうか?

図3にDVSの効果を示します。近年はMOS トランジスタの微細化により、サブスレッシュホールド・リーク電流が無視できなくなります。従来の固定電圧方式では、低Vthサンプルでリーク電流の増大に伴う消費電力増加が大きな問題になります。一方でDVSを採用すると、低Vthであっても回路の高速化を図れるため、電源電圧を低減でき、低消費電力化が図れますので、製品の消費電力SPEC低減に貢献できます。

  • MOS動作周波数 Fmax ∝ VddVth)・μ/ L2
  • 微細化するとリーク電流増大→リークが問題となるVth小サンプルをDVSで補償
図3 DVS有り、無しにおける消費電力効果の比較

DVFSによる最小電源電圧供給

DVSとDVFSの違いは、一言で言うとプロセスばらつき等のworst条件において、電圧だけでなく、動作周波数も考慮に入れて最小電源電圧を供給できる点です。図4にばらつき対応DVFSのブロック図、図5にばらつき対応のDVFSによる最小電源電圧供給を示します。

図4 ばらつき対応DVFSのブロック図

DVFSは、プロセスばらつき/温度変動/動作周波数に応じて、SoCが動作する最小限の電圧を適用的に供給します。SoC内蔵のCPUがレプリカからの遅延情報を電圧指示に変えるのですが、これがMPU/GPUの場合は負荷検出部及びVt検出部(Ring Osc)からの情報がレプリカに与えられます。

図5 ばらつき対応のDVFSによる最小電源電圧供給

ばらつき対応DVFSであれば、動作周波数に応じリーク電流が大きくなる条件で電源電圧を下げるので、リーク電力が保証されます。すなわち、Worst条件に応じて動的にLSIが動作可能な最低限の電圧を供給します。この結果リーク電流を含めて消費電力を最小化できます。

まとめ

最後にDVFSのまとめを示します。

1.プロセッサ系のMPU/GPU/SoCでは素子バラツキ対応を含めたDVFSが幅広く使われている。
2.DVFSは負荷状態に応じて、動的に電源電圧、クロック周波数を制御する。
3. 素子バラツキを考慮したDVFSは低消費電力化の効果が大きい。
4. DVFSは、今後プロセッサのみならず各種SoC(ASIC)にも幅広く使われていく。

いかがでしたでしょうか。この記事がLSIの低電力化における皆様のご理解の一助に慣れればうれしいです。

bookmark_borderシステムLSIのブレイクスルー技術② 動的電圧周波数スケーリング(DVFS)(2)

こんにちは。今日はDVFS機能搭載プロセッサとDVFSの動作原理についてお伝えします。

DVFS機能搭載プロセッサのブロック図

まず、DVFS機能搭載プロセッサについてです。図1に弊社が電源ICで用いているDVFS機能搭載プロセッサのブロック図を事例として示します。

図1 DVFS機能搭載プロセッサのブロック図

CPU内にクロック周波数/電源テーブルが配置され、負荷の大きさに対応するクロック周波数及び電源電圧Vddの指示情報をテーブルから出力します。

指示情報に基づきPLL及び可変電源を制御し、DVFSを実行します。すなわち、負荷の大きさに適合したクロック周波数、電源電圧を用いてDVFSが最適な値を選択実行することになります。

半導体企業の可変電源(DVFS対応電源IC)の製品例

半導体企業の可変電源(DVFS対応電源IC)の製品例を以下に示します。

半導体企業製品例
  1. TI LM25066A
  2. リニアテクノロジーLTC3886
3. ダイアログ・セミコンダクタDA9063
4. ルネサスISL69269
  5. オンセミコンダクタNCP81022
  6. ADI  LTM4680 
7. ディークルーテクノロジーズ DCT013C(開発品)
半導体企業のDVFS対応製品(2024年9月 弊社調べ)

また、Appleは、iOSなどのソフトウェアとAシリーズチップなどのハードウェアを密接に統合し、DVFSを効果的に活用しています。

Apple Mobile Processor における動的電圧スケーリング技術(DVFS)(2024年9月 弊社調べ)

  • プロセッサの負荷監視: プロセッサ内部のセンサーやモニタリング機能が、プロセッサの負荷状況を定期的に監視する。これには、タスクの実行中の処理負荷や電力消費の推定が含まれる。
  • 電圧と周波数の調整: 負荷の高い場面では、プロセッサの動作周波数を上げ、同時に電圧も増加させることで性能を最大限に引き出す。一方、負荷が低いときには、動作周波数を下げ、電圧を低く保ちながらも十分な処理能力を維持する。
  • スケーリングアルゴリズム: モバイルプロセッサには、動的電圧スケーリングを行う専用のアルゴリズムが組み込まれている。これらのアルゴリズムは、プロセッサの状態を評価し、最適な電圧と周波数の組み合わせを決定する。
  • バッテリー管理: バッテリーの残量や充電状態なども考慮に入れながら、電圧と周波数を調整する。

DVFSの動作原理

図2にDVFSの原理を示します。

図2 DVFSの原理

まず上段の説明です。一般に低消費電力化を図るため、SoCではゲーテッドクロックが用いられます。Gated Clockは負荷が軽い場合、所要の処理が終了するとクロックを止めます。これで、タスク処理割当時間後半にはクロックを止めるので、1動作時間を半分=消費電力1/2を図れます。

次に下段の説明です。DVFSではタスク処理割当時間丁度で処理が終了する様に、1/2の電源電圧、1/2のクロック周波数でSoCを動作させます。 すなわちDVFSはゲーテッドクロックに比べて、さらに1/4の消費削減を図れます。

なお、CMOSの特性から、クロック周波数に比例して電源電圧を下げる事ができます。

プロセスバラツキを考慮したDVFS機能搭載SoC/MPU/GPU

次に図3にプロセスバラツキを考慮したDVFS機能搭載SoC/MPU/GPUのブロック図を示します。

図3 プロセスバラツキを考慮したDVFS機能搭載SoC/MPU/GPUのブロック図

リングオシレータ(Ring Osc)の発振周波数からMOSトランジスタの閾値(Vth)を推定します。例えばVthが低い方向に0.05Vばらついた場合、回路の動作周波数が上がります。同一周波数で動作させる場合、電源電圧(Vdd)を下げる事ができるので、消費電力を更に低減できます。一般にVthが低下するとトランジスタのリーク電流が増加しますが、Vdd低減による低消費電力化により相殺できます。こうした工夫によりプロセスバラツキを考慮した設計ができます。

なお、SoCの作りに応じて、リングオシレータは複数個所に挿入されることがあります。

参考までに各CMOS世代におけるVthのプロセスバラツキを示します。

図4 各CMOS世代におけるVthのプロセスバラツキ(2024年9月 弊社調べ)

いかがでしょうか。
次は、動的電圧スケーリング(DVS)開発の背景をお伝えしようと思います。

bookmark_borderシステムLSIのブレイクスルー技術① 動的電圧周波数スケーリング(DVFS)(1)

久々にシステムLSI記事を更新します。今回は動的電圧周波数スケーリング(DVFS)の概要についてお伝えします。

DVFSとは

動的電圧周波数スケーリング(Dynamic Voltage and Frequency Scaling, DVFS)は、プロセッサの処理量(負荷)の大小に応じて、電源電圧およびクロック周波数を動的(適応的)に切り替える技術です。これにより、必要な性能を維持しつつ、消費電力を最適化し、発熱を抑えることができます。

このDVFSによるクロック周波数/電源電圧の動的切り替えについて、表1に示します。

表1 DVFSのクロック周波数/電源電圧動的切り替えとアプリケーション

各種システムLSI(SoC)やプロセッサでは低消費電力化を図るために動的電圧周波数スケーリング(DVFS)が広く導入されています。例えば、SoCの負荷が低いときには動作周波数及び電源電圧を下げ、低消費電力化を図ります。一方、高負荷時には高性能を必要とするアプリケーションに対して、周波数及び電源電圧を上げて高速処理を可能にします。DVFSは負荷の大小に応じて動的に最適な電圧/周波数を割り当て、低消費電力化を図る手法です。

各クロック周波数/電圧における具体的なアプリケーションは概ね下記の通りです。

2GHz/1.2V:AIモデルの学習や推論、ゲーム、ビデオ編集、画像認識、画像生成、画像処理タスク(高解像度)など、高負荷の作業時に切り替えます。
1.5GHz/1V:自然言語処理や音声認識など、中程度の負荷の作業時に切り替えます。
0.8GHz/0.5V:画像処理タスク(低解像度)、長時間かけて良い推論、Office作業、Web閲覧、スリープモードなど、低負荷の作業時に動的切り替えを実施します。

DVFSで用いられている負荷検出手段(MPUの例)

MPUにおいてDVFSで用いられている負荷検出手段を表2に示します。DVFSはMPUのみならず、モバイルプロセッサ、GPU, ECU 等で広く実用化されています。

表2 DVFSで用いられている負荷検出手段(MPUの例)

各半導体企業のソリューション例

各半導体企業が得意なアプリケーション、ハードウェアの競争力を高めるDVFS技術を提供しています。それぞれ簡単に説明します。

DVFSの種類概要
NVIDIA 「GPU Boost」GPUの電力管理を実現のための技術で、一部のGPUシリーズに搭載されています。
AMD GPU 「PowerTune」AMDの「PowerTune」は、エネルギー消費の削減に加え、コンピュータの冷却によって発生する騒音レベルを下げ、モバイルデバイスのバッテリー寿命を延ばすのに役立ちます。(wikipedia)
Intel MPU, GPU「DVFS」Intelは、MPU(マイクロプロセッサユニット)およびGPU(グラフィックスプロセッサユニット)においてDVFS技術を採用しています。これにより、プロセッサの動作周波数と電圧を動的に調整し、効率的な電力管理を実現しています。
Appleスマホ用プロセッサ Aシリーズ「DVFS」AppleのAシリーズプロセッサもDVFS技術を活用しています。これにより、iPhoneやiPadのパフォーマンスを最適化しつつ、バッテリー寿命を延ばすことができます。

DVFSは、現代のプロセッサにおいて不可欠な技術であり、各企業が独自のソリューションを提供しています。これにより、パフォーマンスと電力効率のバランスを取ることが可能となり、ユーザーにとって快適な使用体験を提供します。

次回はDVFSのブロック図、及び動作原理についてご説明します。