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AI×IoTでトイレ見守りシステムを作る(2)

トイレ見守りシステムの2回目です。今日は見守りを可能にする技術の変遷についてお話します。

前回の記事はこちら↓

技術革新がスマートトイレ見守りを可能にした理由とは?

この20年間で、モバイル産業、IoT、AI の急速な発展により、私たちの生活は大きく変わりました。そして、これらの技術の進歩は スマートトイレ監視システム の実現にも大きく貢献しています。

では、どのようにしてここまで進化してきたのでしょうか? その鍵の1つは モバイル産業がけん引した、センサー技術、マイコン(MCU)、そしてAIの進化 にあります。

モバイル産業が技術革新牽引したセンサーとは?

技術革新の大きな原動力となったのが、モバイル産業 です。スマートフォンの進化とともに、メーカーは より小型で低コスト、かつ省電力なセンサー の開発を進めてきました。その結果、以下の技術が大きく発展しました。

  • MEMS(Micro-Electro-Mechanical Systems)センサー – MEMSセンサーは、小型化された加速度センサー、ジャイロセンサー、マイクなどの複雑なデバイスを含みます。これらのセンサーは、ミリメートル単位のサイズでありながら、高精度かつ高感度な測定機能を提供します。例えば、加速度センサーは、自動車の安全システム、スマートフォン、スマートウォッチなど、幅広い用途で利用されています。また、ジャイロセンサーは、デバイスの向きや角度を正確に測定できるため、ゲームコントローラーやドローンの操縦システムなどで重要な役割を果たしています。さらに、MEMS マイクは、音声認識や通信機器において高い性能を発揮します。
  • パッシブイメージセンサー – 従来のRGBカメラやサーマルカメラは、高価な機器に依存していましたが、技術の進歩によってコストが大幅に下がり、ますます多くの消費者が利用できるようになりました。この変化は、スマートフォンのカメラ機能の向上だけでなく、他の分野でも応用が広がっています。たとえば、パッシブイメージセンサーは、セキュリティシステム、医療用診断機器、さらには農業における作物モニタリングなど、多岐にわたる応用が見込まれています。これにより、ユーザーは手軽に高品質なイメージデータを取得できるようになり、情報の可視化や的確な判断を行うための手助けとなっています。
  • レーダー、LiDAR、TOFセンサー – レーダー、LiDAR(Light Detection and Ranging)、そしてTOF(Time of Flight)センサーは、もともとモバイルデバイスや自動車向けに開発された高度なセンサー技術です。特に人の存在を検知する用途において、そのプライバシーを守る機能が注目されています。レーダーは、非接触で対象物の移動を捉えることができ、交通管理や安全装置として広く使われています。また、LiDARは、レーザーを用いて周囲の詳細な3Dマップを生成することができ、これにより自動運転車両の進化に貢献しています。TOFセンサーは、光の飛行時間を測定することで、距離や深さを高精度で計測できるため、拡張現実(AR)やバーチャルリアリティ(VR)といった分野でも重要な役割を果たしています。

このように、携帯電話業界が推進した省電力化、低コスト化、センサーサイズの小型化の3つは、ドローン、XR、VR、ウェアラブルなどの他のビジネスの起爆促進剤となりました。

MCU(マイコン)と組み込みAIの進化

センサーが進化する一方で、それを処理する マイコン(MCU: Microcontroller Unit) も急速に進歩しました。これにより、スマートトイレ見守りシステムのようなエッジAIデバイスの開発が可能になりました。このシステムは、使用者の健康状態や行動をリアルタイムで監視し、データを解析することで、予防医療や健康管理に寄与します。従来のクラウドベースのシステムに依存せず、デバイス自体で直接データ処理を行うことができるため、迅速なフィードバックとプライバシーの保護が実現されます。

  • 省電力で高性能な32ビットMCU が、センサーや画像データをリアルタイム処理 できるようになりました。
  • 一部の企業では MCUとセンサーを一体化 し、さらなる小型化と効率化を実現しました。ハードウェアの複雑さが軽減され、製造コストも削減されます。これにより、より多くの企業や開発者がエッジAI技術を活用しやすくなり、様々な産業での応用が広がります。
  • IoT向けのAI対応チップ の登場により、AIを活用したエンベデッドシステムの開発が容易になりました。データの収集、処理、分析を行うための計算能力を持ちながら、従来のMCUよりもさらに小型・低消費電力を実現します。

7〜8年前までは、32ビットMCUでAIを処理することはその処理能力に限界があり、実用的ではありませんでした。しかし現在ではこうした技術の進歩により、デバイス上でAIアクセラレータを内蔵したMCUがAIモデルを直接実行することが可能になっています。この進化により、リアルタイム分析が可能になり、従来のクラウド依存型のアプローチから脱却することができるようになり、より迅速な意思決定を可能とし、さまざまな業界での応用が期待されます。

AI対応MCUチップの構成イメージ

⓵シングルパッケージソリューション
②マルチパッケージソリューション

見守りシステムにおける、AI活用の可能性とは?

なぜスマートトイレ見守りにAIが必要なのか?

「そもそも、なぜトイレ見守りシステムにAIや機械学習が必要なのか?」という疑問を持つ方もいるかもしれません。その答えは、センサーデータの処理が極めて複雑だから です。従来のアルゴリズムでは、転倒検知や動作検知を高精度に実現することが難しい のです。AIを活用することで、以下のようなメリットが得られます。

  • 高精度な検知 – AIは、従来のアルゴリズムでは見逃しがちなパターンを認識できる。これにより、より正確に異常事態を検出することができ、利用者の安全を向上させます。
  • 適応性 – AIモデルは、学習を重ねることでより正確な検出が可能に。様々な環境や状況に応じた柔軟な対応が可能となります。
  • 自動的な特徴抽出 – ルールをいちいち手作業で作らなくても、AIを利用すればデータから自動的にパターンを学習し、精度の高い判断が可能となります。

ただし、AIは万能ではありません。最も重要なのは 「正しいデータを用意すること」 です。データの質が悪ければ、AIモデルの学習精度も低下します。そうならないような学習データの収集と管理が成功の鍵を握ります。

スマートトイレ見守りの未来

センサー、MCU、AIの進化 により、プライバシーに配慮したスマートトイレ監視システムが実現可能になりました。今後、さらなる技術革新により、以下のような進展が期待されます。

  • よりコンパクトで低コストなソリューションの登場
  • より高精度なAIモデルによる検知の向上 IoTやクラウドとの統合によるさらなる利便性向上

次回は、スマートトイレ見守りの実験の様子や、実験に使用したTOFセンサーについて解説します。