ディー・クルー・テクノロジーズ Blog

bookmark_border反射 (6)

反射を使って何かを調べると言うと・・・TDRという測定方法があるのをご存知ですか?

“TDR”をGoogleで検索すると・・・ホテルご予約の案内。東京ディズニーリゾート・・・の略でもあるのですが(汗) ここではTime Domain Reflectometry の略です。

TDRという測定法

直訳すれば「時間軸の反射測定」となります。今まで反射の波形を時間軸で説明してきたのに何をいまさらと思われるかも知れませんが、この測定はSパラメータと同じく反射を測定する方法のひとつで、反射がどこで発生しているか、その場所を突き止めることが出来ます。

昔の高価なオシロスコープにはTDR測定用の端子があって、ここに同軸ケーブルを経由して評価ボードを接続します。そうすると評価ボード(非測定物)のどの辺りで反射が起きていて、しかもそれが特性インピーダンスより大きいのか小さいのかもわかってしまうと言う優れものです。

評価ボードのコネクタ部分が悪いのか、LSIの入力が駄目なのか、ストリップラインの曲がっている場所で反射してるのか をオシロスコープの波形を見ればすぐに分かり、しかも、指で触るとリアルタイムに波形が変化したので、非常に直感的で、まさに体で感じることが出来る優れた測定方法です。まだ駆出し頃、反射しているポイント指で探って、そこに指と同じ回路を追加して反射の影響を出来るだけ減らすことと格闘していました。

ちなみな私の人差し指の等価回路は、10pFと5.1Ωの直列でした。

TDRのメリット

インピーダンスの整合を調整する方法にはスミスチャートを使う方法(別の機会に紹介したいと思います)があります。しかしこの方法はRF回路などインピーダンスを整合させる周波数範囲が狭い場合には非常に有効ですが、NRZ信号などの様に信号成分が広帯域におよんでいて、広い周波数範囲でインピーダンス整合をとる場合には有効とは言えません。

その点、TDRは非常に広い周波数範囲でインピーダンスの整合を調整するのに都合の良い測定方法です。

反射波を用いたTDRの測定原理とは

TDRの測定原理は非常に簡単です。非測定物(なぞのモジュール)に向かって非常に立ち上がり時間の短いパルスを送出し、その反射波を観測するだけです。

図1

あるモジュールの端子に同軸ケーブルを接続してTDRを測定した結果、次の様な波形が出てきたとします。

図2

つまり、V(vs):青の信号を送信した結果、信号源のインピーダンス整合をする抵抗RsにV(vin):緑の波形が現れたとします。実はこの波形から色んなことがわかるのです。

TDR測定で分かること

  1. 波形の落ち着いた場所が中心(0.5V)から少し上にずれている。
    これは、終端抵抗が信号源インピーダンスから少し大きめになっていることを意味します。長い時間その値を保っていられるのは直流に近い成分であることを意味しているので、直流結合で接続されている終端抵抗が50Ωより10%ほど大きめになっていることが分かります。LSI内に終端抵抗を実装した場合は有りうることです。

  2. 終端される前に一旦、電圧が低くなっています。短い時間だけ、つまり高周波でインピーダンスが低くなると言うことは・・・信号線とGNDの間にコンデンサが入っていることを意味します。つまり、終端抵抗と並列にコンデンサが付いていることが分かります。

  3. 少し手前に来ると、インピーダンスが高くなっている部分があります。短い時間だけ、つまり、高周波だけインピーダンスが高くなると言うことは・・・信号に直列にインダクタが入っている事に成ります。原因はモジュールを空けないと分かりませんが、信号の接続VIAかもしれません。

  4. 更に手前に戻って来ると、再びインピーダンスが低くなっている場所があります。ここにも信号とGND間にコンデンサが入っていることが分かります。この部分はモジュールの入り口なので、コネクタと接続するためにボードのパターンが太くなっているのかもしれません。

  5. インピーダンスがずれている間の時間がおよそ1.4nsecで、2箇所が同じ位の間隔になっていることが分かります。もし、モジュール内のボードがFR-4(ガラスエポキシ基板の代表的な例)で作られているとすれば、伝播遅延時間は70psec/cmなので、1.4nsecは20cmで作られる事に成ります。反射波は行って帰ってきていますので、ボード上では約10cmの距離に換算できます。

ブラックボックスを開封せずに波形で推定する

TDR測定の結果と答え合わせ

なぞのモジュールを開けた結果は次の通りです。

図3

ほぼ、波形から推定した結果を同じ回路となっていることが分かります。

なおTDRの更に詳しくは、下記を参照してください。

https://literature.cdn.keysight.com/litweb/pdf/5989-4149JAJP.pdf

TDR測定は、中を触ることの出来ない回路(例えば、モジュールやLSIなど)のインピーダンス整合がどこでずれているかを外部から知ることが出来るので、非常に重宝な測定方法です。

超音波も反射波を用いた測定法の1種

反射波を使った方法は他にもあり、超音波を発射して、反射波を解析することで反射を起こした物体の状態(硬さなど)や距離を求めて映像にする超音波診断装置は、良い代表例だと思います。

超音波
https://ja.wikipedia.org/wiki/%E8%B6%85%E9%9F%B3%E6%B3%A2%E6%A4%9C%E6%9F%BB

ここまで書いて、イルカは超音波診断装置を何万年も前から使っていたのだと、気が付きました(汗)

光を捉えると言う点では人も目も優れていて、ろうそくの光でも夏の海岸でも本が読めます。

しかし、自然に入ってくる光(情報)を見るだけではなく、自ら音波(言葉や行動)を発して、その反射(対話)を感じることで、目では見えない相手の内側や本質や大切なものが見えてくるのだ と教えられた気がしています。


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前回までは“反射”がどの様に波形に影響を与えるか過渡解析を使って説明をしてきました。今回は小信号解析(AC解析)も使ってもう少し反射について説明したいと思います。

過渡解析を使わず、AC解析を用いる

線形解析ができるのか確認

“反射”と言うと進行する波と反射する波があり、それらが重なり合うので、なんとなく線形解析が出来ないような気がするのですが、どうなるか確認してみたいと思います。

図1

前回使った回路を図 1に示します。信号源インピーダンスRs=40Ω(多重反射を意図的に発生させます)で、終端側の抵抗Rtm=50G(Open)、寄生容量C0=10pFとしています。また、各伝送路超は50cmとしていますので、全部で2mの長さになります。電圧源V0を信号源として、Voutまでの周波数特性を計算した結果を次に示します。

図2

17MHz辺りでピーキングが発生して、それが繰り返されているように見えます。

横軸をリニアに変更した結果を下に示しました。

図3

横軸をリニアにすると、同じ形の繰り返しになっていることがよく分かります。周波数は35MHzで形も正弦波のように見えます。

横軸が時間であれば、よくある波形なのですが、このグラフの横軸は周波数です。

周波数特性を知る

あまり見ない形になっているので、これで良いのか少し不安では有りますが、気にせず先に行こうと思います。

先ずは35MHzと言う数字はどこから来ているのか考えてみることにします。 35MHzの一周期は・・・ です。

伝送路の長さは50cm×4=200cm。伝送路の計算に用いている遅延は70psec/cmとしています(普通のFR-4はこのくらいの遅延になります)。 なので、信号の遅延量は、70ps×200cm=14nsecとなります。14nsecと言うことは の信号ならちょうど一周期分がぴったり伝送路に入ります。

と成ると、 周期では35.7MHzと成り、周期では17.9MHzと成ります。

図4
図5

周波数特性でピークと成る周波数は伝送路の中に入れると、“腹”が反対側に表れ、反対に谷となる周波数は、“節”が伝送路の反対側に現れる法則があるようです。 ときどき“反射の影響が出るのはどのくらいの周波数からか?”と聞かれることがあるのですが“伝送路長が 波長になる周波数からかな”と、答えていました。

が図5を見ると、 “伝送路長が 波長になる周波数から。場合に依っては 波長から”と答えないといけなかった事が分かってしまいました(大汗)

例えば、10cmのストリップラインをFR-4基板に引いたときは・・・

この周波数あたりから利得特性に盛り上がりが現れ、358MHzではピークとなるので、180MHz辺りの周波数では波形に影響が出てくると考えるべきです。

試しに反射を線形解析で解いてみる

ところで、周波数特性が分かっていると言うことは、逆フーリエ変換すれば時間軸波形を求めることが出来るかもしれません。“反射”は周波数特性やフーリエ変換と言った線形解析では解けないというイメージがあるのですが、試してみたいと思います。

入力波形

図6

この波形をフーリエ変換すると下記のような周波数成分に分解できます。

図7

この各周波数成分に下の周波数特性を掛け算して・・・

伝送路の周波数特性

図8

その結果を逆フーリエ変換すると・・・下のような波形になります。

逆フーリエ変換による波形出力

出力波形

図9

過渡解析と逆フーリエ変換による波形の違い

同じ事を過渡解析で計算してみると、

図10

と成って、ほぼ同じ波形を得ることができました。注目すべきは、1個目のパルスです。

周波数特性+逆フーリエ変換を使った結果では1個目のパルスから歪んでいますが、過渡解析は最初のパルスは歪んでいません。どちらの結果を信じれば良いのでしょうか。

ひずみが発生する原因は多重反射です。パルスが伝送路内に入ってまだ時間が経過してない間は多重反射が起きていない(反射がまだ発生していない)ので、最初のパルスは歪まずに到達できるのです。この辺まで計算してくれる過渡解析の方がより現実に近い計算結果を示していると言えます。

しかし、過渡解析には時間がかかります。伝送路が複雑になると指数関数的に計算時間が増えていきます。反面、周波数特性(AC解析)+逆フーリエ変換は伝送路の複雑でも殆ど計算時間は変わらないです。最初のパルスを無視すれば、十分使えるのではないかと思います。

今回は“反射”を過渡解析を使わないで計算する方法を紹介しました。

次回は、反射+線形解析となると避けては通れないSパラメータに触れたいと思います。

bookmark_border変化するから伝わる

 投稿者: Setsuo Misaizu

こんにちは、美斉津です。

桜と言えば、ソメイヨシノが有名です。この種類は日本中どこに行っても見ることが出来るので、すごく繁殖力が高い木だと思ってました・・・が、実はソメイヨシノは種無しって知ってましたか。それじゃどーやって増えたかと言うと・・・人が増やしてきたそうです(それ以外ないですが。。。)

きれいな花を毎年咲かせるから、いつの頃からか日本人はソメイヨシノを植えてきたのです。

種が無いのにどうやって苗を手に入れるのかと言うと・・・”さし木?”で増やすそうです。繁殖力が高い”大島桜”などの根っこに、ソメイヨシノの若い枝をさして育てるそうです。今も外でハラハラと散っている大きな桜の根っこは、違う種類の桜だったなんて、ちょっとびっくりです。

毎年綺麗に咲く事を楽しみにしつつ、今回のネタに行きたいと思います。

アナログデータの閾値

僕たちは当たり前のように、データを送ったり、受信したりしています。そのデータは殆どがデジタルデータなので”1″と”0″の組合せで出来ています。

僕たちアナログ屋さんが先ず気にするのは、どこからが”1″で、どこからが”0″なのかを判断する閾値です。

同じ基板上にデータの送り先があるときは、あまり気にはしないのですが(速度が速くなると別です)、遠く離れた相手に信号を伝える時はだいぶ厄介になります。それは基準となる電圧(たとえばGND)が同じとは限らないからです。

“GNDは地球を通じて繋がっているから平気なのでは?”と思う方もいるかもしれませんが、地球をアースと呼んでGNDとするのは、いくら電流を取出しても(流し込んでも)電圧が変化しないからそのように呼んでいるだけで、横浜と大阪の地面の電圧が同じと言うわけではないのです。

例えば、横浜から大阪まで電線を引いて、横浜で1Vを接続したら、大阪で1Vって測定できるかって言うと・・・無理だと思います。

電圧で閾値検出する方法とは?

じゃあどうすんの言うと、一番簡単なのは電線を2本使うことです。どっちの線の電圧が高いかで”1”と”0”を区別します。

本当に横浜と大阪を2本の線で繋いで通信が出来るかと言うと・・・2本の電圧差をすごく大きくすれば出来るかもしれません。

でも、2本も線を使うなんてもったいと思いませんか? 特に線が高価だとなおさらです。そのような場合は、データに閾値の情報を混ぜて送ります。一番簡単なのは、データの平均値を閾値とする方法です。受信する側で入ってきた信号の平均値を検出し、これより大きいと”1”、小さいと”0”って判断します。こんな感じです。

しかしデータが変化しないと、閾値が分からなくなる

上の絵の場合、信号の平均値がおよそ0.5Vの場合で、うまく動作しています。しかし、うまく動作するためには制約があります。それは、”データが変化していること”です。データの変化が止まってしまうと・・・

の様に、平均値は徐々に動いていって、入力したデータと一致してしまいます。もうこうなってしまうと”1″、”0″の判断が出来なくなってしまいます。このようにならないためには、データは変化し続けることが必要です。

しかし、実際に送りたいデータは変化し続けてくれるとは限りません。ずっと”1″を送り続けたい時もあります。

データが変化しないときでも閾値を判別させられる?

そんなときは、”スクランブル”をかけます。戦闘機がスクランブル発進するわけでも渋谷の交差点を渡るわけでもないのですが、データを”ある法則にしたがって”ゴチャゴチャに”1”と”0”を混ぜてしまいます。こうした信号は”1″や”0″が連続していないので、受信した側で”1″と”0″を安定して判別できるようになります。

受信して判別したデータは、ふたたび”ある法則で”、”デ・スクランブル”しすることで、元に戻すことが出来ます。

信号を伝えるには、変化することが重要で、変化が止まると信号は正しく伝わらなくなるって事なのですが、これってアナログの回路だけではなく、人と人のコミュニケーションにも言えることなのでは、と思うこの頃です。

(2008-04-07 弊社匠ブログより転載)

ご参考)ディ―・クルーのディジタル信号処理ソリューション

bookmark_borderLOGって偉大

花粉症は冬の終わりから春のもの、という印象が強いですが、夏秋でも調子悪くなることがありませんか?実はイネやキクといった夏秋でも花粉を出す草花も原因になるので、春夏秋冬、一年通してリスクはあるものなのですね。

花粉症は体の免疫システムの暴走が原因と言われています。昔は色んな菌と戦っていた免疫システムが、清潔できれいな環境になったものだから、戦う相手を失ってしまい仕方なく花粉を攻撃して鼻や目がぐちゃぐちゃにする って言うことらしいです。

と言うことは、花粉症にならない僕の環境はあまりきれいではない?・・・複雑です。

LOG(指数)とは?

今回は”LOG”(指数)にちょっと触れてみたいと思います。

LOGって会話や操作の記録の”ログ”ではなくて、数学の関数に事なのですが、アナログに回路設計をしているとこのLOGに良く出くわします。数式でもLOGは頻繁に使いますし、良く耳にするdB(デシベル)はLOGの関数です。

グラフのLOGのすごさ

僕が一番良く使うLOGは、周波数特性を表すのに使うグラフで、横軸がLOGで書いてあります。

このグラフの(LOGの)何がすごいかと言うと、”0”が無いです。そして、ものすごく広い範囲を一枚にかけてしまう事です。

例えば・・・

のように、1から1e20までの周波数を1枚に書いてしまうことが出来ます。身の回りにある殆どの電子機器はこの範囲の周波数で動作しています。オーディオから始まって、非常に広い範囲を占めている電波を使っているラジオやテレビ、携帯電話。その先の赤外線領域は光通信で使われていますし、もっと先のX線はレントゲンやCTスキャンなどに使われています。

電子回路の世界で、1Hzというとほとんど直流といっていいほどの遅い周波数になり、ちょっと特殊な扱いになってきます。

終わりのない、世界のあらゆる周期を1枚で表す

でも周期的に変化するって事を考えると、一日は朝と晩の繰り返しだし、1年は春夏秋冬の繰り返しになるので、このまま左にLOGグラフを拡張していくことが出来て、ずっと左に広げていくと・・・・

ってなります。

時間を周波数(1/周期)をとして書いてみると”宇宙誕生:130億年前?”から始まって、”恐竜の時代:5億年前”から”氷河期:10万年前”、”文明誕生:4000年前”を経て、”春夏秋冬:1年”にたどり着きます。そして、1ヶ月、1時間を過ぎると今(1秒)になり、音、電波の世界になってきます。

文明誕生が4000年周期で繰り返されるかは分かりませんが、氷河期は再びやってくるなんて説もありますし、星は誕生と死を繰り返しているのは物理の常識だし、もしかしたら宇宙自体も誕生と崩壊を繰り返しているのかもしれないです。全ての事象が繰り返されるもので、ただその周波数(1/周波数)が違うだけって考えたら、宇宙誕生からX線まで、1枚のグラフにかけてしまうのです。

あと、宇宙誕生の直後には、大量のX線が放出された・・・なんて記事を読んだ覚えがあります。

“0”がないLOGのグラフは実は、右と左が繋がっているのでは?? なんて思ったします。

いつ始まって、いつ終わるか分からない”時間”を表現するには、LOGが都合いいのかもしれないです。

(2008-03-13 弊社匠ブログより転載)

bookmark_border3種の部品

今回は僕たちが回路設計に使う部品とその性質にちょっと触れてみたいと思います。

どんなに複雑な動きをするデバイスでも回路でも、3種類の部品と2種類の電源で成り立っています。

3種類の部品とは、抵抗、コンデンサ、インダクタで、2種類の電源とは電圧源と電流源です。

スーパーコンピューター(もうあまり誰も言わなくなってしまったけど)から携帯まで、電気回路はすべて、この5種類の部品に分解できます。トランジスタやFETはもちろん、水晶発信器もこれらの3種類の部品で等化モデルを作ります。

必要な計算式は、オームの法則のみです。

電圧=電流×抵抗

を知っていれば、ほとんどの事がわかります。抵抗しかないけどインダクタやコンデンサは?っていう方もいるかもしれませんが、インダクタやコンデンサは、周波数によって値が変わる抵抗なので、抵抗と同じ様に考えればいいのです。

抵抗   =周波数が変わっても抵抗値は変わらない。

コンデンサ=周波数が高くなると抵抗値が下がる。

インダクタ=周波数が低くなると抵抗値が上がる。

電子回路の中ではこの3種類の異なる性質も持つ部品達が、様々なドラマを繰り広げているのです。

共振回路はどうなる?

例えば、共振回路はこんな感じになっています。

電流源(I1,I2,I3)にコンデンサ(C1)、インダクタ(L1)のみと、これらを並列に繋いだ回路を比較してみます。

コンデンサの抵抗は周波数が高くなると小さくなるので、OUT_Cの電圧は右下がりの特性になり、逆にインダクタの抵抗は周波数と共に大きくなるので右上がりになります。(縦軸のdB?、なぜ直線? は別の機会に触れたいと思います)

並列回路はどうなる? 

それでは、並列に繋いだ回路はどうなるのでしょうか?

並列なので、抵抗の低い方が勝つ(の値に近くなる)です。
周波数が低い時はインダクタ(L2)が、周波数が高いほうはコンデンサ(C2)が勝ちで”へ”の字の特性になると思われます。

それでは交差している160KHz付近はどうなるのでしょうか?お互いに抵抗値が近いので、どっちが勝つとかいえない状況です。。。シミュレーション結果は次のようになります。

160KHz付近はインダクタもコンデンサも値が近くてお互いに譲らないので、”共振”が発生し、非常に高い抵抗値になります。

相反する性質を持っているインダクタやコンデンサをいっしょに使うことで、単体の性質を遥かに越えた性質を得ることが出来るのです。

抵抗を加えてみる

抵抗を忘れてました。抵抗も参加させると、こんな感じになります。

抵抗(緑の線)が共振(赤い線)の頭を抑えています。抵抗はインダクタやコンデンサが作る共振を制御することが出来ます。インダクタ(L2)とコンデンサ(C2)の喧嘩に抵抗(R2)が仲裁に入った感じです。

同じ部品を直列に繋いでみる

同じ部品を並列ではなくて、直列に繋いでみます。直列なので、抵抗値が高いほうが勝ちますから周波数が低い時はコンデンサが勝って、周波数が高い時はインダクタが勝ちます。仲裁に抵抗が入って。。こんな感じになります。

①インダクタが右上がりで、②コンデンサは右下がり、③抵抗は水平。④並列は低いほう、直列は高いほうが勝つ。

この法則を覚えておいて、回路部品を順番にグラフに書き加えていくと、どんなに複雑な回路でも周波数特性の概略が分かってしまうのです。

難しい計算(jωやダンピングファクタ、Qなど)も最終的には必要なのですが、”絵”で部品の性質を感覚的に知っておく方が楽しいし、実際の回路設計の現場では役に立つと思います。

(2008-02-17 弊社匠ブログより加筆転載)

bookmark_borderインピーダンスマッチング

D-CLUEには大きく分けて3分野のエンジニアが在籍しています。それはアナログデジタルファームの3分野です。
代表の石川は、D-CLUEを創立する時から、この異なる3分野のエンジニアを集めて会社を創りました。この異なる分野のエンジニアがそれぞれの分野の目線から、同じ問題に取組み、団結と「合わせミソ」で幾多の難題を解決してました。

異なる分野のエンジニアが一つの仕事に団結して取り組むためには、相手の分野の事を深くは理解はできなくても、ある程度、感覚的に分かっている事が必要なのではないかと思います。
私はアナログのエンジニアですが、アナログだけを分かっていれば済むかと言うと、そうでは無く、
デジタル回路が何をしているのか、ファームはどう制御しているか等をある程度分かっていないと、
団結して一つの仕事に取組めないのでは無いかと思います。

そんな背景もあり、今回のブログのテーマは、「アナログ回路を分かり安く説明して、デジタルやファームのエンジニアに感覚的に知ってもらうこと」です。

初めての方もいらっしゃるかも知れないので、簡単な自己紹介をさせて頂きます。

私は美斉津と申します。

1986年に電気工学科を卒業したのですが、アナログ電子回路は避けて通って来たので、卒論は、今となっては名前すら見る事がなくなった「FORTRAN」を使った光線追跡プログラムに関するものでした。そんな学生でしたので、アナログの世界には会社に入ってから出会いました。
そして、アナログの世界の魅力に取り付かれて、気が付けば長い年月が過ぎていました。

インピーダンスマッチングとは

今回は、「インピーダンスマッチング」について触れたいと思います。

デジタル回路の動作速度が速くなると、今まで経験した事のない問題に直面します。
なぜか信号が化ける、書いたはずのデータが書けてない、時々誤動作する、などの頭の痛い問題です。
その原因のひとつとして「インピーダンスマッチング」があげられます。
RFなどの高周波が絡む仕事をしている方にとっては馴染みの深い単語ですが、デジタル回路を中心に仕事をされている方には、非常に分かり難いのではないかと思います。
学術的には「伝送路の特性インピーダンスと終端抵抗のインピーダンスが整合している事」と書いてあるのですが・・・何を言っているのか理解し難いものがあります。

インピーダンス不整合とは

インピーダンスがマッチングしないと・・・何が問題なのか?

インピーダンスが整合(つまり一致)していないと何が起こるかと言うと、「反射」が起こります。
つまり、配線やプリント版のパターンを通ってきた大事な信号が反射してしまい、エラーや誤動作を引き起こします。

なぜ反射が起きるのか

それでは、なぜ反射するかというと・・・

しっかりと説明するには難しい計算式を沢山使わないといけないので、簡単な例で説明しようと思います。長いロープ(出来れば柔らかいほうがいいです)を用意して床に一直線に伸ばして置きます。
片方を誰かに足で踏んでもらっておいて、反対側の端を持って”1”を伝えるつもりで勢いよく持ち上げてすぐ下げます。そうすると、ロープに”山”ができ、これが反対の端に向かって走って行くのが見えると思います。反対の端に届いた時に何が起きるかよく観察してください。
“小さい山”がちょっと戻ってきませんでしたか? これが”反射”です。

今まで、ロープを伝ってきた信号の”山”が急にロープが無くなってしまうので、行き場を失って戻ってきたのです。つまり、今まで信号を伝えてきた媒体が急に変わり、片側には山があるのに、もう片側は平たんな状態になってしまい、“連続である”という自然現象の原則と矛盾します。この矛盾を解消するために、反対方向の山が発生します。これが反射が生じる理由です。
この現象は、電気信号だけではなく”音”や”光”でも一緒です。今まで飛んできた媒体の空気とは違う山に、声が当たって反射したのが”やまびこ”です。

反射を発生させないために必要なこと

では、反射を発生させないようにするには・・・

媒体が変わったと気づかせないように、つまり、ロープが切れていないように見せればいいのです。
具体的には、ロープの端を足で踏んで固定しないで動くようにしてやれば、反射は起きなくなります(と思います)。
アナログ回路設計は難しいとか、高速伝送は理解しにくいとか良く言われます。
でも、アナログ回路は我々身の回りに「自然」という非常に優れたお手本を真似をしているだけなのでは? スケール(時間軸を含めて)が違うだけでないか?と感じる事がよくあります。
“アナログ”の語源は、英語のanalogy(類似性、類似学)で、”類似している”から連続していると言う意味と変化したと聞きます。

ロープのように”連続”した信号を扱うアナログ回路設計

つまり、連続した信号を扱うからアナログ回路なのですが、連続しているのは信号だけではなく、電子回路で起きている現象が我々の回りの自然と密接な関係にあり、まさに連続しているのでは?と感じている今日この頃です。感覚的な説明になってしまいましたが、次回は具体的な回路を使い、波形の歪み方などを含めて、インピーダンスマッチングを説明したいと思います。

(2008/1/8 弊社 匠ブログ記事より加筆転載)