ブログ | 1 アナログ回路教室 | ディー・クル―・テクノロジーズ | Page 10

bookmark_borderMixer-ミキサー (その1)

長い間暖めていた回路の話を始めたいと思います・・・それは Mixer(ミキサー)です。

その原理こそ数式で知ってはいたものの、深い動作のレベルでは納得の出来てない回路でした(今でも理解は足りないのですが)。

Mixerは混合器とも言い、2つの周波数を混ぜるからこの名前が使われています。
http://ja.wikipedia.org/wiki/%E6%B7%B7%E5%90%88%E5%99%A8_%28%E3%83%98%E3%83%86%E3%83%AD%E3%83%80%E3%82%A4%E3%83%B3%29

図1

ウィキペディアでは上のように書いてあり、

“2 つの異なる周波数 f1 と f2 とを入力すると、ヘテロダインの原理により、その和と差の周波数 f1±f2 を出力する回路。”となっています。 数式だと分かり難いので、回路にしてみると次のようになります。

図2

回路はビヘイビアモデルを使った単純な掛け算(Vr×Vc)をする回路です。

図3

理想的な回路なので、その出力も計算通りの1MHzと19MHzが混ざって出力されます。 波形VoutのFFT演算結果を下記に示します。

図4

大きなスペクトラム成分として、入力した周波数の差分(1MHz)と和分(19MHz)が出てきている事が分かります。

注)それ以外の成分がたくさん見られますが、その説明は別の機会にします。。(汗)

もしfrを10MHzにした場合(2つの周波数を同じにした場合)

図5

差周波数成分は無くなって、和の20MHz成分だけが出てきました。

続いてfr=11MHzとしてみました。

図6

frを逆に振っても計算通りの、1MHzの差周波数と、21MHzの加算した周波数が出てきます。

Mixerの用途としては、出力の差周波数の様子からからfr周辺の様子を探ることが多いです。つまり、高い周波数frを観測しやすい低い周波数にコピーしてその様子を調べるのです。

回路の動作は計算通りで問題は無いのですが、実用的にはちょっと問題が出てきます。

それは、高い周波数の様子を探ろうとしたとき、このままではfrが9MHzなのか11MHzなのかの区別がつかないからです。

もう片方のfcを10MHzから11MHzに変えてみれば分かるのですが、発信器の周波数を変えるのは手間が要ります。

実際には別の方法でfrがどちらに振れているのかを求めています。次回はその方法を紹介したいと思います。

bookmark_border電源フィルタ (3)

電源フィルタの部品の寄生素子

寄生素子は必ず発生する

今回は電源フィルタを構成する部品の寄生素子分を含めた場合について紹介したいと思います。寄生素子とは、素子に寄生するものなので、出来れば無いほうが良いのですが、実際には必ず寄生素子が存在します。寄生素子はその物理的な構造やサイズなどから決まり、例えば、インダクタにはコイル以外に抵抗やコンデンサが寄生しています。

図 1

具体的な値は以下のような値をとります

Lf1=1.8uHの場合

R0=5800Ω

R1=0.4946Ω

C0=0.291pF

Cf1=15000pFの場合

R2=0.0462Ω

R3=10GΩ

L2=0.42nH

電源フィルタにおける寄生素子の影響

これらの寄生素子を考慮に入れるとインダクタやコンデンサの特性は次のように変化します。

図 2

コンデンサは60MHzより高い周波数ではインダクタに変わり、インダクタは200MHzより高い周波数ではコンデンサに変わってしまっていることが分かります。

つまり、ある周波数(自己共振周波数などと呼びます)より高い周波数では、インダクタやコンデンサはもはや別の素子に変化していると言うことです。

高周波の寄生素子

これらの寄生素子を使って電源フィルタの特性がどうなるかを調べてみました。

なお、使った定数は上のほうで使った値でLf1=1.8uH、Cf1=15000pF、Rf1=15Ωで、寄生素子を含みます。

図 3

図 4

この結果を見ると、寄生素子の影響は100MHz以上で現れる事が分かります。つまり、寄生素子がない場合と比べると、電源雑音を除去する能力が悪くなり、雑音やリップルが回路側に入ってきてしまいます。このように高い周波数が電源から発生する事は少ないように思うのですが、実際に回路ではありえないとは言い切れません。例えば、同じボード上にRFのパワーアンプが搭載されている時などには、数GHzの雑音(と言うよりも信号成分)が電源経由で入り込む事が良くあります。

高周波の雑音を電源に加えてみる

もし、高周波の雑音が電源に加わったとしたらどうなるかを確認してみましょう。

図 5

上の図のように雑音源(5GHz,2Vppの正弦波)が加味されたときの過渡解析は以下のようになります。

図 6

寄生素子を考慮していない回路では、電源に雑音は現れないのですが、寄生素子を考慮した計算では、雑音とした追加した5GHzの信号成分がまだ消えずに残っています。

ノイズの原因は結局電源フィルタということも良くある

今回は非常に大きな雑音源を印加して見やすくしていますが、実際に回路ではこのように大きな雑音が見て分かるように混入する事は比較的に少ないです。しかし、オシロでは見えないような小さな雑音でも感度の高いプリアンプが増幅してしまい、S/Nが悪くなってから初めて気が付く事もあります。その原因は追っかけていくと大半は電源フィルタの構成にたどり着きます。

“電源だからそんなに高い周波数成分は気にしなくても平気だろう”って考えがちです。しかし、高周波と低周波ある周波数で区別するものではなく、全部周波数特性として繋がっているので、”周波数が低いから大丈夫!”言った思い込みは危険です。(美斉津)

bookmark_border電源フィルタ (2)

電源フィルタの弊害対策を考える

前回は電源フィルタの設計は意外と難しくて、雑音を除去するはずの電源フィルタが、逆に雑音や過剰な電圧を発生させてしまう回路になってしまう事があると紹介しました。

今回はその対策を考えてみたいと思います。

コンデンサとインダクタの挙動変化を知る

急激な電圧低下に耐えられないコンデンサ

前回の回路は負荷に流れる電流のピークを10mAとしていましたが、最初の電流でいきなり電圧が1V付近に降下しています。

図1

これは、コンデンサCf1の値が150pFと小さいために急激な電流の増加に電源電圧が耐えられないためです。

つまり、急速な電流の変化にはインダクタは応答できないので、コンデンサが電流を先ずは供給して頑張り、あとでインダクタからゆっくりと電流を供給してもらうといった動きをするのですが、最初の部分で頑張りが足りないと電圧が降下してしまいます。

コンデンサがどのくらい頑張れるかは、次式の計算で求めることが出来ます。

電圧降下は流れる電流を積分してコンデンサの値で割れば良いと言うことなので、計算してみると・・・の電圧降下が発生する事に成ります。

従って、150pFは10mAが40nsec流れるといった負荷には耐えられないということです。

コンデンサの値を大きくする

ではどうするかと言うと、コンデンサの値を大きくするのが一番簡単です。

150pFで2.67Vの電圧降下だったので、特性に影響のないところまでと言うと・・・2桁ずらして、15000pFで0.0267Vの電圧降下であったら特性に問題はなさそうです。

早速変更して計算をして見ましょう。前回と同じように1MHzをカットオフ周波数にするためのインダクタの値を計算してみると下記の様になりました。

1.7uHは一番系列で近い値の1.8uHとしました。

図2

電圧効果は無くなりましたが、代わりに電源が振動するようになってしまいました。

電源振動の原因を周波数特性で確認する

電圧源からの周波数特性を確認してみると・・・・

図3

案の定、ピーキングが発生していました。

共振するポイントを楽に計算で求める

このままではリンギングが条件に依ってはひどくなり、場合に依っては発振してしまう恐れがあります。このピーキングは電源フィルタのインダクタとコンデンサの共振に依って発生しているので、この共振のQを出来るだけ低くすれば良いのですが、その計算は結構面倒な計算式となり、途中で挫折した方もいるかもしれません。そこで、もう少し簡単な方法を紹介したいと思います。

図4

まず上の図の様に電源から見たインピーダンスを、回路を組み立てながら考えてみます。

図5

最初は抵抗だけしかないので、1KΩが見えているだけです。

図6

コンデンサCf1が並列に付くと、並列なので低いインピーダンスが見えます(優先されます)。コンデンサと抵抗のインピーダンスが等しくなる周波数は、R0=1KΩ、Cf1=15000pFの場合、となります。

図7

コンデンサとインダクタの共振回避の方法とは?

最後にインダクタLf1を直列に繋ぎます。今度は直列なのでインピーダンスが高いほうが見え、右の様に再びインピーダンスは高くなります。 ここで大事なのがコンデンサとインダクタがぶつかり合うポイントです。Lf1=1.8uH、Cf1=15000pFの場合、このポイントの周波数(つまり、共振周波数)はとなります。

この辺は教科書にも載っているので、知っている方がほとんどだと思います。

抵抗を入れ、ぶつかり合うインピーダンスのポイントをずらす

でも、ここからがミソです・・・ インダクタとコンデンサがぶつかり合ったポイントのインピーダンスは、Lf1=1.8uH、Cf1=15000pFの場合、 となります。

インダクタとコンデンサの特性が直接ぶつかり合うと“共振”を起こします。

これが、図 3のピーキングの原因なので、共振が起きないように、つまりインダクタとコンデンサが直接ぶつからないようにしてやれば、ピーキングも減る事に成ります。

図8

例えば、上の様にコンデンサC0に直列に抵抗R1を入れて、インピーダンスが抵抗値より下がらないようにすることで、直接インダクタとぶつかり合わないようにしてみます。

ピーキングも振動も抑えられる

Lf1=1.8uH、Cf1=15000pF、Rf1=15Ωとして計算した結果は次の様になります。

図9

ピーキングは大幅に減りました。それでは負荷を接続してみましょう。

図10

負荷電流に依って少し電源が変動しますが、大きな電圧降下も振動も無くなりました。

これでやっと電源フィルタの完成です。。。といいたいのですが、現実の電源フィルタにはもう少し工夫が必要です。それは寄生素子の影響です。

次回は寄生素子の影響を加味して、電源フィルタを完成させたいと思います。