
高速伝送の最終回です。前回は 適切なPre-emphasisの設定の仕方について書きました。
今回は「ft」と、高速伝送のトレンドについてお伝えします。
GHz帯は怖くない ~デバイス能力とft(トランジション周波数)の考え方
高速IF設計において、“GHz帯だから難しい”と感じる方も多いかもしれませんが、
実はデバイス能力に着目すると、2~3Gbpsクラスの伝送であれば、十分な設計マージンがあることが分かります。
デバイスの速度指標「ft」とは?
アナログICやトランジスタのカタログスペックには必ず「ft(トランジション周波数)」が記載されています。
ftは「電流増幅率(hFE)が1になる周波数」を意味し、そのデバイスが増幅素子として動作できる最高速度を表します。

2~3Gbps伝送なら“1/50~1/100”の領域
たとえばプロセスごとのft値は以下の通りです。
プロセス | ft(GHz) |
---|---|
110nm | 110 |
55nm | 230 |
2Gbps伝送信号の主な周波数成分は1GHz帯付近です。
つまりデバイスftに対して1/50~1/100程度の帯域でしか動作させていません。
そのため、現行のデバイス(110nmや55nmプロセス)では「デバイス速度のマージンが非常に大きい」というのが実情です。
このことを知っておくと、「GHz帯」も実はそこまで“怖くない”領域だと感じられるはずです。
最新の高速化トレンド
一方、技術の最先端では
- 有線通信:50Gbps~100Gbps級
- 無線通信:100GHz~300GHz級
といった「ft限界ギリギリまで使い切る」設計や研究も進んでいます。
このレベルになると、デバイスそのものの能力を引き出すための新たな工夫や回路技術も必要になってきます。
高速IF設計を支える周辺技術とまとめ
今回は高速IF設計についての基本的な考え方、アイパターンを活用した波形評価、波形等価におけるPre-emphasis技術までを解説してきました。
最後に、実際の高速インターフェース設計でエンジニアが“ぜひ身につけておきたい”技術要素を整理します。
- 伝送路理論(マクスウェル方程式、Sパラメータ、フーリエ変換)
- 波形等価
- Pre-emphasis → z変換
- リニアイコライザ → ラプラス変換
- 非線形イコライザ → インパルスレスポンス、LMS適応アルゴリズム
- 同期系
- CDR(クロックデータリカバリ)→ インタポレーション技術、離散フィードバック回路
- PLL(位相同期回路)→ 非線形回路技術、発振回路
- 符号系
- 疑似ランダムパルス発生、誤り訂正 → ガロア体
- 高速回路設計技術(高速バッファ設計、終端技術、シグナルインテグリティ(SI)、レイアウト、パッケージング等)
正しい知識を持って対処すれば、GHz帯は特に難しい分野ではありません。
但し、高速回路設計技術以外の多岐にわたる周辺技術を理解しておく必要があります。“これらが高速IF設計の基礎体力となる”ことを、ぜひ覚えておいてください。